376.会話 羊を数える話
本日もこんばんは。
眠くなる前のちょっとした時間に読める作品はこちらです。
「おや、今日は夜更かしですか?」
「なんだか眠くなくて。睡魔に襲われるまで読書か映画観賞でもしようかと」
「いいですねぇ。あ、そうです。寝なくてはいけないけれど、眠くない時のために使える技をお教えいたしますよ。いざという時に使ってくださいな」
「眠くなる技? 薬品摂取ですか」
「どこから出したんですか、その睡眠薬」
「気がついたら鞄に入っていました。まだ使ったことはないです」
「没収!」
「ああー」
「さて、身ひとつでできる眠る技を伝授いたしましょう。ズバリ、羊を数えるのです」
「羊肉ってクセがありますけどおいしいですよね」
「そうですね。そうじゃなくて」
「羊を数えて何になるのですか」
「羊が一匹、羊が二匹……と数える単純作業により、脳が疲れて眠くなるそうです」
「口を動かし、言葉を吐き、ひとつずつ数を増やしていくには思考が必要ですよ」
「広々とした牧場にいる羊さんを想像すると、リラックスして眠くなるかと」
「時間的に食欲が勝る可能性があります」
「で、では、ええと、うーん、あううう~……」
「ところで、魔王さんの首がひとつ、魔王さんの首がふたつ……はいかがでしょうか」
「どうしてそう物騒なんですか」
「魔王が倒されれば世界は平和になりますよね。安心して眠れると思います」
「首がふたつ以上あるということは、ぼくが数人いることになりますが」
「戦闘中に分裂でもしたんじゃないですか」
「ぼくだっておんりーわんの存在ですよう」
「心臓なら五つくらいありそうですね」
「あったとしても、五つ数える間に眠れるとは思えません」
「もっと個数が必要だと。なるほど。では、魔王さんの髪の毛を一本ずつ抜きましょう」
「つるぺかまっしぐら」
「抜いた髪でかつらを作るのです」
「下人に身ぐるみはがされますよ」
「何かを数えることで眠気を誘うのであれば、羊じゃなくてもいいですよね」
「ロマンチックに星でも数えますか?」
「本のページをめくりながら数えるのはどうでしょう」
「大体の書物って下辺りにページ数が書いてある気が」
「鞄に入っているおやつのクッキーの枚数を数えましょう」
「食欲に負けて食べる気配がするので却下で」
「魔王さんが秘密裏に集めている私の写真の枚数だけ剣で刺します」
「んなぁ⁉ さ、刺すってぼくをですか、写真をですか⁉」
「普通に魔王さんですけど」
「よ、よかったですぅ~……」
「よくないんですけどね」
「日に日に増える勇者さんコレクションは星の如し。数え切る前に眠れるでしょう」
「……へえ、そんなにあるんですね」
「アッ」
「一生懸命に盗撮した甲斐があったというわけですか。へえー」
「あの、羊さんも逃げ出す圧を感じるのですが……」
「羊が逃げようと魔王さんは逃がしませんよ」
「ゆ、勇者さんから熱い視線が……! ぼく、心臓の音が止まりません!」
「先にお別れするのは胴体がいいですか、首がいいですか」
「動悸が止まりません、の方が正しい表現でした」
「魔王さんも夜更かしして眠れないんですか?」
「急に何を……。勇者さんが起きていたからお話していただけ――ハッ」
「私が眠らせてあげますよ」
「出た、いつもの永眠」
「定期的に永眠勧誘をしないと神様に怒られそうで」
「背筋も身も頭も目も凍る勧誘ですね」
「そこまで凍ったのなら命も凍ればいいのに」
「凍ったぼくを勇者さんの愛で溶かしてくれるってことですか! ロマンチックゥ!」
「は?」
「身の毛もよだつ冷たいお声」
「凍えると眠たくなりますよね。いい調子ですよ」
「室内なのに吹雪いているようです。ああ……、意識が朦朧としますぅ……」
「魔王さんは眠気をゲットですか。私は全然眠たくありません」
「体を温めると眠たくなるといいますので、ぼくがぎゅっとしてあげ――」
「そうだ、この睡眠薬を」
「没収! 本日二回目!」
「返してくださいよ」
「正しく使わないと危ないですよう。ホットココアを作ってあげますからぁ!」
「白い、数がある。つまり羊みたいなものなので睡眠薬を数えて眠ろうかと」
「羊さんも驚いて二度見するでしょうね」
お読みいただきありがとうございました。
ホットココアを飲んだら眠くなった勇者さん。
勇者「没収された薬はどこへ行くのですか?」
魔王「ゴミ箱ですが」
勇者「数えられた羊はどこへ行くのですか?」
魔王「それは脳内――って、食べる気満々のお顔ですね」