37.会話 睡眠の話
本日もこんばんは。
睡眠の話です。寝る前に少しだけ、お付き合いくださいませ。
「またお昼寝ですか? 一日何時間寝るおつもりです」
「数えていません。眠いから寝るんですよ。それ以外に理由が必要ですか」
「寝すぎも体に悪いと聞いたことがあるので心配なんです。ほどほどが一番ですよ」
「朝起きない魔王さんに言われたくないです」
「ぼくは人じゃないので」
「むぅ。私も問題ありません。今までの睡眠時間を回収しているだけです」
「寝貯めはできませんよ」
「めんどうな作りですよね、人間の体。いくら寝てもまた眠くなるなんて、バグですか」
「正常ですね。でも、勇者さんの睡魔はバグの可能性がありますよ」
「自由に寝て食べて寝る生活にフィットした結果です。正常な睡魔です」
「堕落オブ堕落ですよ。そんな生活していると、いまに体がだめになりますよ」
「今まで健康オブ健康、一周廻って不健康の生活をしていたのでだいじょうぶです。人間、堕落する時間も必要です」
「勇者さんは勇者ですから、休める時に休むのは理にかなっていますが……。それにしたって、どんな格好しているんですか」
「なかなか合う場所がなくてですね。ベストポジションを探したらこうなりました」
「ダイナミック!」
「お褒めにあずかり光栄です」
「褒めてません」
「魔王さんは朝弱いくせに、それ以外はあんまり寝ませんよね」
「危機感と警戒心を置いてきた勇者さんが道端でお昼寝するからですよ」
「ちゃんと砂利は避けています」
「無防備な勇者さんをほったらかしてぼくまでお昼寝したら、何かあった時に困ります」
「平気ですよ。たいていの人間は私を魔族だと思って近寄りませんから」
「彼らはどうして勇者さんを魔族だと勘違いするんでしたっけ?」
「赤い目をしているからですね」
「お昼寝の時、その目はどうなっていますか?」
「閉じていますね。まあ、そうですね、はい、すみません」
「わかったのならいいです」
「平気ですよ。少数の人間は赤目に関係なく襲ってきますから」
「一番だめなやつですよね?」
「一番ラクですよ。正当防衛と称して木っ端微塵にできますから」
「寝ている時ですよ? 気づきますか?」
「悪意は気持ち悪いですからね。寝ていても気づきます」
「勇者ぱぅわぁーですか」
「いえ、私個人の感覚です」
「そうなんですね。それは魔物にも反応するんですか?」
「しません。けれど、勇者としての私が反応するようできています」
「へえ。新情報です」
「というわけで、魔王さんも気にせず昼寝していいですよ」
「あの、ひとつだけお訊きしたのですが、そのセンサーって発動範囲はどれくらいなんですか?」
「神様曰く、半径五十メートルらしいです。たぶん。おそらく。きっと」
「では、三十メートル先の魔物は感知できますよね。ぼくの視線の先にいるあれですが」
「そうですね」
「わかっていてそのリラックス具合なんですか」
「近づいてきたら倒しますよ。たぶん。おそらく。きっと」
「気になってぼくはお昼寝どころではありません」
「魔王さんが低級魔物を気にしてどうするんですか。はやく寝ればよろしい」
「目視できる位置に魔物がいるのにお昼できる勇者さんがこわいです」
「休める時に休んでおくんですよ」
「いまは動く時かと思います」
「睡眠時間は、一日十二時間はほしいですよね」
「半日寝るおつもりですか」
「できれば永眠したいのですが」
「すぐそういうことを言うんですからぁ。安眠にしてください」
「じゃあ、代わりに退治してきてください。私の安眠のために」
「仕事放棄!」
「それにあの魔物、見た感じ悪さをしているわけでもありませんし、魔物ってだけで退治するのもよくないですよ」
「それはそうですけど……。あ、小屋を壊した」
「あのやろう……。大人しくしていれば私の仕事が減ったものを……」
「怒るとこ、そこですか? うわ、小屋の木材を抱えてこっちに突進してきますよ」
「私の睡眠を妨害するものはすべて敵です。巨悪です。排除駆逐滅殺!」
「先ほどまでのだらけ具合はどこへ……。にしても、やっぱりお強いですね」
「さて、私の敵は消えました。のんびりまったり昼寝タイムです」
「やっていることは勇者さんのお仕事なのに、コレジャナイ感がありますね」
「結果が同じなら問題ありませんよ。勇者に素敵なイメージを抱くのが間違いです」
「うむむ……。何も言えません……。ところで勇者さん、今日は休憩したらどこへ行きますか――って、もう寝てるし」
お読みいただきありがとうございました。
夜に読んでいるかたは良い夢を。
昼間と朝に読んでいるかたは、本日の夜に良い夢を。
勇者「魔王さんがそばにいると安心して眠れます。私の命を狙う輩を勝手に成敗してくれそう」
魔王「勇者ともあろう人がそんなんでは困りますよう」
勇者「でも、動くでしょう?」
魔王「当然ですもちろんです当たり前です! ぼくのことなんだと思ってるんですか!」
勇者「魔王だと思いたいんですけどねぇ」




