369.会話 三年寝太郎の話
本日もこんばんは。
勇者さんなら余裕で3年くらいぐーたらできそうです。
「勇者さんは今日もごろごろぐーたらお昼寝。ですが、何も考えずにのんびりしているように見えるだけで、実は常人には理解できないすごいことを考えているのでは……?」
「いえ、ただぐーたらしているだけです」
「勇者さんにとってはぐーたらでも、ぼくたちからするとすごいことの可能性も……!」
「いえ、一切なにも考えていません」
「謙遜しなくていいんですよ」
「しようにもできないレベルでだらけているだけです」
「どうやってこの世界を救おうか、方法を考えているんじゃないんですか?」
「なんで私が世界を救うんですか」
「ヒント、勇者」
「あー、そうでしたね。お断りです」
「息をするよりもナチュラルに断るので見逃しそうになりますよ」
「ぐーたらするのが忙しいので世界を救っているヒマなんてありません」
「勇者のセリフではありませんが、勇者さんのセリフですね」
「言葉って難しいですね」
「思ってもないことを言わないでください。せめて思いながら言ってくださいね」
「難しいことを言いますね」
「かなり簡単だと思いますが……。さて、三年寝太郎の勇者さんは、ぐーたらしまくっていますが頭の回転は速いですよね。寝太郎さんと似ているところがあります」
「誰それ」
「あるところに、一日中寝てばかりの怠け者がおりました」
「私の話をしています?」
「ただ、根っからの怠け者ではなく、ある時から起きなくなったようです」
「ヤブさんからそういう病気があると聞いた覚えがありますね」
「日照りが続く村では農作物が育たなくなり、困った村人たちは罰当たりがいるせいだと考え、寝太郎さんを殺そうとします」
「思考回路どうした」
「ところが、ふと起き上がった寝太郎さんが山の上の大きな岩を落とします。結果、山が崩れ、衝撃で田んぼに水が流れ込んだのです」
「理解したような、しないような展開ですね」
「村は救われ、村人たちは気づきます。寝太郎さんはただ寝ていただけではなく、どうすれば村を救えるのかずっと考えていたということを」
「いや、寝ている時に思考はできませんよ」
「それから、寝太郎が寝ていても村人たちは『怠け者』と罵ることはなくなりました」
「たぶんですけど、村人たちは騙されていると思いますよ」
「寝ている寝太郎さんを見て、きっとまたすてきなことを考えてくれているのだろうと思うようになったそうですよ。人は見かけによらないってことですね!」
「たしかに、寝太郎さんが賢いことは認めます。おそらく、村を襲った日照りすら、寝太郎さんの計画によるものでしょうね」
「雲行きが怪しいですね」
「雨が降るなら村も救われますが、そうもいかなかったみたいです。なぜなら、すべては寝太郎さんの企みによって仕組まれたことですから」
「一体何のために?」
「誰にも邪魔されることなく一生怠けるためですよ」
「とんでもない秘密を教えるように、とんでもなく怠惰なことを言っていますね」
「村を出て行かなかったことにも理由があります」
「ふむ。なんですか?」
「寝太郎さんが村人を騙し、地位を確立することで、これからの衣食住を獲得したのです。ひとりのぐーたらには限度がありますからね」
「かなり計画的ですね」
「人は見かけによらない。まさにその通りでした」
「見た目より中身ってことですね」
「他にも考えられることがありますよ」
「よく回る頭ですねぇ。ぜひ教えてくださいな」
「寝太郎さんはまじの怠惰人間だったのですが、村人からの殺意を感じ、自分が生き残るために村を潰そうと岩を落としたのです」
「シリアス展開」
「しかし、岩の衝撃は結果として村を救うことになってしまったのでした」
「村を救ったのに『しかし』はおそろしいですね」
「寝太郎さんは村が水没することも望みましたが、水量はそこまで多くなく、村人の殺意も消えたのでそのまま住むことにしたのでしょう」
「こめられた教訓は知りたくないですね」
「殺意隠して手段隠さず」
「こわいこわい」
「寝太郎さんに似ていると言われた私も同じようにするべきですよね」
「同じように、とは」
「寝ているフリをしながら魔王さんを暗殺します」
「寝太郎さんは暗殺者じゃないです」
「すべての者を永遠に眠らせる、寝かしの太郎さん、略して寝太郎」
「ほんとうはこわい昔話……ですね」
お読みいただきありがとうございました。
勇者さんと寝太郎さんのぐーたら勝負はたぶん勇者さんが勝ちます。
勇者「ねぼすけなら魔王さんもいい勝負ですね」
魔王「ぼくは朝が弱いだけですよう」
勇者「殺意を感じても起きませんよね」
魔王「慣れました」