368.会話 花鳥風月の話
本日もこんばんは。
きれいなサブタイですが内容はいつも通りです。
「花を眺め、空を仰ぎ、動物を見守る勇者さん、まじで最高ですね……」
「せっかくのんびりしていたのに、魔王さんのセリフで台無しですよ」
「ごめんなさい、心の声が抑えきれなくて」
「通常運転ですね」
「勇者さんは花鳥風月を友にしているようですね」
「知らない友人です」
「花や鳥、風や月。つまり、うつくしい自然や動植物をうつくしいと思う心のことです」
「……別に思っていませんよ」
「またまたぁ~」
「顔がやかましいですよ。……まあ、旅をするようになってから、ゆっくり空を眺めることは増えたかもしれません」
「ぐーたらのんびりお昼寝しているおかげですね」
「自然を好むなんて、まるで勇者みたいじゃないですか」
「勇者なんですよ、きみ」
「そういう魔王さんは自然を慈しまないんですか」
「とっても愛していますよ」
「自然自然。私じゃなくて」
「命というものは自然の理です。つまり自然はきみです」
「結論の流れがこわい」
「人間を愛するぼくが勇者さんを愛することは当然のことですよね」
「ですよね、と言われても」
「ぼくは生きとし生けるものすべてを愛していますよ」
「魔なるものは違うんですか」
「あれらは魔力が形を成しているだけのまがいものです。命があってもかりそめですよ」
「慈悲のない目」
「対して人間や花、鳥などの小さきものたちはすばらしいです。生まれては消える儚い命の輝きは煌々たるもの。瞬きすら惜しいと思う唯一無二の存在たちです」
「ドライアイまっしぐら」
「雰囲気という言葉をご存知でしょうか」
「魔王さんのように、馬鹿みたいに時間があるひとにとっては自然を見守るのもいい暇つぶしになるのでしょうね」
「一時期、山が形成されていく様を眺め続けたこともありました」
「面白いんですか?」
「勇者さんが観ているとんちんかんB級映画の方が数万倍おもしろいです」
「それは重症ですね」
「ひたすら勇者さんを眺める人生を送りたい……」
「それは重症ですね。やめろ」
「なぜですかぁ。ぼくは自然を愛でているだけですよ」
「花鳥風月なら花や鳥を愛でてください」
「花を愛でる勇者さんを愛で、鳥を愛でる勇者さんを愛でるということですね」
「拡大解釈」
「風を感じる勇者さんを愛で、月を眺める勇者さんを愛でる……。いえ、風は感じなくていいです。花と鳥と月とぼくだけ愛でていてください!」
「過激派だし最後に異物が混入しています」
「花鳥魔王月でいきましょう」
「バランス悪い……」
「花鳥魔月にしますか?」
「まだ語呂が悪いです」
「困りましたね。このままでは勇者さんに愛でてもらえません」
「愛でる気は毛頭ないので安心してください」
「わかりました。では、ここに咲いているすてきなお花を愛でてください」
「……きれいです」
「ありがとうございます。重ねてありがとうございます」
「魔王さんの思考回路を理解してしまった可能性のある自分が嫌です」
「ぼくが愛でたお花を勇者さんが愛でれば、間接的にぼくも愛でてもらったといっても過言ではありませんね!」
「過言も過言。頭だいじょうぶですか?」
「元気です!」
「いいお返事」
「ありがとうございます!」
「元気だなおい」
「果てしない時間を虚無で過ごすと一周回って元気になるんですよぉ」
「だめじゃないですか」
「自然は自然でも人間が一番見ていて楽しいです」
「だから私を見るなって。……私は人間きらいです」
「改まってどうしました?」
「人間は自然というのなら、私は人工的なものを愛でようと思います」
「なるほど? 自然の反対……、つまり魔なるもの⁉ つまりぼく――」
「ミソラは今日もふわふわですね」
「そっちか……」
お読みいただきありがとうございました。
魔王さんっていつからこんなに勇者さんガチ勢を全面に出すようになったかな……と考えたのですが、たぶん最初からこうでした。
勇者「ミソラふわふわ……」
魔王「ぼくに目もくれませんね」
勇者「魔王さんを愛でてもいいことないです」
魔王「そんな」