363.会話 アンガーマネジメントの話
本日もこんばんは。
通常運転の魔王さんが見られます。
「アンガーマネジメントという言葉をご存知ですか?」
「ハンガーの真似しないと?」
「人間には難しいのでやめてくださいね。アンガーマネジメント、それは怒りのコントロールです。カッとなってから六秒間がアドレナリンの分泌が最も多いとされています」
「なるほど」
「ご理解いただけましたか?」
「よくわかりました。その六秒の間に相手を殺ればいいのですね」
「深く頷き、真っ直ぐなまなざしで言っていますが違います」
「怒りが薄れる前に滅せよということでしょう?」
「一時の衝動に身を任せず、理性を持って対応しましょうということです」
「人間の理性なんてたかが知れています」
「理性のりの字も感じられない無表情で言わないでください」
「そもそも、激おこ状態が六秒で終わるというのもおかしな話です」
「一時的な感情の強さが窺えると思いますよ?」
「せめて六十秒はないとスピーチもできません」
「一分間スピーチじゃないんですよ」
「今日の議題は魔王さんの寝相について。まじで腹立つ」
「六秒間の深呼吸をどうぞ!」
「すーはー、すーはー、はー、はー、はー、はー」
「吐き過ぎでは?」
「はー、はー…………、うっ」
「死んじゃうので吸ってください!」
「げほっごほっ、さて」
「さて、じゃないんですよ。何事もなかったような顔しないでください?」
「怒ってるんですか? なんで?」
「勇者さんがふとした瞬間に危ないことをするからです。めっ! ですよ」
「魔王さん、六秒」
「いーち、にー」
「魔王さんのあほー」
「さーん、しー」
「魔王さんのお間抜けー」
「ごー」
「魔王さんのすってんころりんー」
「ろーく…………」
「魔王さんの――おや、どうしました? 六秒ですよ、六秒。収まりました?」
「…………」
「それとも、アンガーマネジメントとやらは噓っぱちだったのでしょうか」
「…………それで」
「はい?」
「それでぼくを怒らせようとしているおつもりですか」
「そうですけど……、なんか、雰囲気がいつもと違う――あ、いや、同じだこれ」
「ただかわいいだけなんですけど⁉ 怒らせようとする時点でおかわいいのに⁉ 出てくる言葉が妙にきゅーとなラインナップなの何⁉ もうやだこの子かわいい‼」
「勢いが」
「意味がわかりませんどうなってんですかあまりにかわっっ‼」
「怒ってます?」
「わかりませんこれ何の感情なんですかね⁉」
「その勢いのまま訊かれても困ります」
「というか勇者さん、かわいいことするなら先に言ってくださいよ動画撮りたい!」
「これは怒られているみたいですね」
「悪いことしてないのに怒るわけないじゃないですかっ!」
「一応、悪口言ったんですけど」
「心がこもっていないのでノーカンです」
「口先勇者再び」
「勇者さんがかわいすぎて困る!」
「魔王さんの怒りポイントが意味不明で困る」
「ぼくはどうすればいいんですか?」
「急に真顔になるのやめてください。肝臓が冷えます」
「そこは肝でいいんですよ」
「じゃあ膵臓で」
「内臓はあっためた方がいいですよ。って、そうじゃなくて」
「怒りは収まりましたか?」
「勇者さんには怒っていませんよ~」
「……笑顔なのに怒ってる?」
「うふふふふ~」
「六秒で収まりそうですか?」
「いえいえ、これは悠久の時に渡る感情ですから」
「どゆこと」
「勇者さんのかわいさでギリギリ保っている魔王です」
「さっぱりわからん……」
お読みいただきありがとうございました。
魔王さんが悠久の時に渡ってキレている相手とは。
魔王「怒りが収まりません」
勇者「笑顔で言わないでください」
魔王「これがぼくのアンガーマネジメントですよ」
勇者「一番こわいじゃないですか」