362.会話 アイデンティティの話
本日もこんばんは。
アイデンティティぐちゃぐちゃのおふたりのSSです。
「魔王さんがお風呂場に置いてありましたよ」
「あ、すみません。どこに忘れたかと思ったらお風呂場でしたか。取り外しができるのでついつい置き忘れちゃうんですよね」
「ご自分の本体なんですから気をつけてください」
「はーい……って、ぼくの本体は光輪じゃないですよう!」
「あぁ、アホ毛でしたっけ」
「違います。チャームポイントでありアイデンティティです」
「前から思っていたんですけど、光輪とアホ毛が重なってどっちつかずですよ」
「輪っかは大きさも変えられますし、好きなように付け外し可能です」
「アホ毛も外せそう」
「いたたたたたた! 外せませんからぁ!」
「光輪とアホ毛がなくなったら、魔王さんたる部分は何もなくなりますね」
「ぼくのことなんだと思ってるんですか」
「そもそも魔王さんとは一体なにか」
「光輪で遊ぶのはいいですが、なくしちゃだめですよ」
「今日は晴天ですね、魔王さん」
「それ、ぼくじゃないですからね? ぼく、こっちですからね?」
「お昼ごはんはオムライスにしましょう、魔王さん」
「惜しい! そっちはアホ毛です。目線をもう少し下に」
「合わせるのがめんどくさいです」
「おそらく一番合わせやすい位置だと思うのですが」
「魔王さんのアイデンティティがこれだとすると、私のアイデンティティは何だと思いますか?」
「これて。そうですねぇ、勇者さんは存在がアイデンティティかと!」
「そぉれ」
「ぼくの光輪がっ!」
「もう少し真面目に答えてください」
「勇者さんにだけは言われたくない……」
「私が私であるのを示すものや場所は何でしょうか」
「自己の証明ですか。お任せください! ぼくが三時間語りましょう」
「持ち物も多くありません。代表して大剣に私を任せましょう」
「あの、語っていいですか?」
「今日からこれが私です。よろしくどうぞ」
「あの、ちょっと?」
「私でなくなった私はもはやこの世のものではありません。お供え物はお寿司で」
「それがお目当てですか」
「デザートもお願いします」
「食いしん坊さんですね」
「お腹すきました。オムライス……」
「いま作りますので、少し待っていてくださいな。そんな目で見ないで――いえ! めっちゃかわいいのでぼくだけ見つめていてください!」
「待っている間にフカヒレを求める中華料理人と戦うサメの映画を観ます」
「食べることが好きな部分もアイデンティティのひとつかと」
「私も中華料理人と戦いたいです」
「サメの方じゃないんですね」
「オムライスたのしみー」
「あの、ぼくの言葉は届いたでしょうか? いいこと言った気がするのですが」
「はえ? 今、フライパン戦闘シーンが白熱していまして」
「ちょっと気になること言わないでくださいよう」
「B級映画も捨てたもんじゃないですよ」
「どんなものにも良い点を見つける。それもきみのすてきなところです」
「いけー、やれー、シェフ帽を食い千切れー」
「ぼくがいいこと言った時ばっかり聞いてない……」
「魔王さんの言葉は一割くらいしか認識されていません」
「少ない……」
「サメの塩焼きもおいしそうですね。どうですか、今度?」
「勇者さんの言葉はちゃんと聞こえているのに一割くらいしか理解できませんよ」
「ちゃんと脳を働かせてください」
「勇者さんにだけは言われたくない……」
「結局、アイデンティティが何かよくわかりませんでしたね」
「ぼく、そこそこ説明したと思うのですが」
「魔王さんの角や牙は魔王としてのアイデンティティということですね」
「ぼくに角や牙はありませんよ?」
「真っ赤な目もそのひとつ」
「ぼく、青目なのですが」
「ふむ、アイデンティティはごく簡単なものだったということです」
「なにひとつぼくにないものでしたね」
「オムライスのアイデンティティはオムレツの上に書かれたケチャップ文字です」
「あ、すみません。今日はデミグラスソースをかけてあります」
「むっ……。おいしければなんでもいいや」
お読みいただきありがとうございました。
アイデンティティとは(哲学)。
勇者「アホ毛と光輪なら、どちらの方がアイデンティティ感が強いのでしょうか」
魔王「アイデンティティ感」
勇者「なんちゃって聖なるひとを表す光輪ですかね」
魔王「なんちゃって聖なるひと」