360.会話 天使の話
本日もこんばんは。
ファンタジーのド定番、天使のお話です。
「そういえば私、勇者なのに聖なる存在にあったことありません」
「神様は」
「ノーカン」
「聖なる存在といっても、色々ありますよ? 何を想像しているのか訊いても?」
「………………なんだろう」
「また何も考えずにしゃべったでしょう。聖女も聖なる存在のひとつですよ」
「あ」
「その顔は『会ったことある』ってことですね」
「他にはどんなものがいますか?」
「勇者とか」
「あー、それは会ったことないですね」
「きみのことですが?」
「それ以外でお願いします」
「なんで勇者であるきみよりぼくの方が詳しい前提なんですか」
「年の功ですよ」
「それを言われたら何も言い返せません。そうですね……。…………天使、とか」
「おぉ、聖なる存在っぽいですね」
「神様直属の……、配下ですからね。普通の人間には見えませんよ」
「勇者には見えるんですか?」
「はい。とはいえ、向こう側に見せようという意思があれば、ですが」
「上下関係の気配を察知」
「ご安心を。天使はあまり干渉してくる存在ではありませんから」
「よくご存知なんですね」
「年の功ですよ」
「私は勇者なのに天使のことを何も知りませんし、会ったこともありません」
「そんなに興味を持つ必要もありませんよ」
「魔王さん、怒ってます?」
「へっ? な、なんでですか?」
「いえ、なんとなくですけど、怒っているような気がして。私、何か気に障ること――」
「いえいえいえいえいえいえいえ‼ そんなことは決して!」
「やかましい……」
「ごめんなさい……」
「いつものあなたなら、『勇者さんが勇者業に関係することに興味を! 明日は雨かな⁉』とか言いそうなのに、あまり気乗りしていないようだったので」
「うぐっ、うぅ~……、そう、でしたかぁ。うぬぬぬ……」
「もしかして、過去に天使と何かあったのですか」
「あるような、ないような……です」
「魔王としては、『ない』のはおかしいはずなんですけどね」
「天使がどうのというより、ぼくは神様が大嫌いなんですよう」
「よく知っています」
「むしろ天使は好きですよ」
「えっ、そうなんですか? 反応的に苦手なのかと思いました」
「だって元は……、いえ、なんでもありません。ところで、天使といえば!」
「突然やかましいですね」
「本の中ではうつくしい衣を身にまとい、神秘的な羽を持ち、神々しい光の輪があるとされていますね。そして、大変にすてきな存在だと描写されます」
「私もそのイメージです」
「また、とても大切だったり愛おしかったり可愛かったり尊いものを『天使』と言うこともあります。つまり、そう、きみのことです」
「勝手知ったる強引な誘導。魔王さんの十八番ですね」
「勇者さんまじ天使!」
「嫌です」
「いやです⁉」
「神様の下僕感が増して気味が悪いです。虫唾が走ります」
「そこまで言いますか」
「白い羽とかぜっっっったい嫌ですよ。似合わないです」
「では、黒い羽はいかがでしょう」
「黒い羽の天使は堕天使だと本に書いてありました」
「勇者さんの場合は怠惰な天使で惰天使かと」
「真面目な顔でなに言ってんですか」
「ぼくはいつだって本気です」
「黒い紙を羽の形に切り取っているのは私の幻覚でしょうか」
「上手に切れました! どやぁ!」
「楽しそうに私につけるな」
「惰天使勇者さん爆誕~。かわいい~。写真パシャパシャパシャパシャ」
「撮り過ぎです。カメラ壊しますよ」
「びえぇ!」
「まったくもう、目を離さなくてもすぐ写真を撮るんですから」
「勇者さんがかわいいからでーす!」
「やれやれ。……なんだか、うまく話をはぐらかされましたね」
お読みいただきありがとうございました。
天使の元は……、なんでしたかね。
勇者「何枚写真を撮るんですか」
魔王「勇者さんと黒い羽が似合いすぎて」
勇者「あなたは白い羽が似合いそうです」
魔王「ぼくは天使になれませんけどね」