359.会話 遊園地に来た話その⑩・パレード
本日もこんばんは。
全10回の遊園地SS、最後はパレードです。お楽しみくださいませ。
「日が沈み、夜になった遊園地の最後のイベントはこちら!」
「……なんですか? ただ人が多いだけで何も……ん? 何か来ました」
「かわいらしいキャラクターたち! 豪華な装飾! 楽しい音楽! きらきら光る夢の列! そう、パレードです!」
「大名行列ってこんな感じなんですかね」
「違うと思いますし、よく知ってましたねそんなもの」
「本に書いてありました」
「一体何の本……、こほん、いかがですか? パレードを見るのは初めてですよね」
「派手」
「どこかで聞いた感想ですね」
「きらきらぴかぴか、眩しいです」
「勇者さんの目が細く……」
「音も大きい……。うわぁ、水が飛んできた」
「演出ですね。あ、見てください勇者さん。あのキャラクター、かわいいです!」
「園内で見た覚えがあります。なるほど、こういう仕事もするのですか」
「仕事て」
「……あ、おばけうさぎ」
「フリフリのスカートにリボンがついたお洋服、かわいい~!」
「なんだ、楽しそうじゃないですか」
「あれ、なんで笑っているんですか?」
「笑ってません。おばけうさぎの人気に呆れているだけです」
「彼女が登場してから観客の熱気がとんでもないですね。さすが人気キャラです」
「中身は人間の着ぐるみなのに、ずいぶん楽しそうなことです」
「みんな夢を見ているのですよ」
「夢なんて一瞬なのに」
「そう言うわりには、しっかりパレードを見るのですね」
「限界まで元を取るために、です」
「おやおや、ご立派です」
「観覧車で終わりだと思ったので、もう言うことがありません」
「締めに入っていましたもんね。パレードを予定していたぼくは内心焦りました」
「ポップコーンを買って帰ろうかと思ったら、腕を引かれてここにいましたね」
「限界まで遊園地を楽しむため、ですよ」
「……。魔王さん、飛び入り参加したらいいじゃないですか」
「そんなこと言うと、きみも道連れにしますよ」
「ここで静かに見るとしましょう」
「改めて、勇者さん、今日は一日遊園地で遊んでいかがでしたか?」
「観覧車で言った通りです」
「できればもう一度」
「欲張りですね。お断りです」
「ええん……。ですが、ぼくはおっしゃる通り欲張りなので、また来たいです」
「遊園地に?」
「はい。きみと」
「…………考えて、おきます」
「ありがたいお言葉です」
「ほら、私ばかり見ていないでパレードを見てください。終わってしまいますよ」
「おっと」
「これ、ただ手を振っているだけじゃありませんね。ストーリーがありますよ」
「キャラクターたちが魔物と戦い、遊園地を守るお話のようですね」
「人間が好きそうな話だこと」
「勇者さんの出番では⁉」
「こっち見ないでください」
「失礼しました。勇者さんの出番では⁉」
「前を見ながら言っても同じです。私の出番はないです」
「ですが、勇者を担当するキャラクターがいませんよ」
「こっち見んな」
「失礼しました。人間は勇者が大好きなのに、なぜいないのでしょうか」
「それは……、ここが夢を見る場所だからじゃないですか」
「それはどういう――」
「あ、そろそろ終わりですね。魔王さん、帰りましょうか」
「名残惜しいですが、そうですね。帰りましょう」
「みんな同じ方向に歩いて行きますね。夢の終わりです」
「楽しかったですね、勇者さん!」
「うわ、なんですか突然。声でか」
「楽しかったですね、勇者さんっ」
「……そうですね、魔王さん。ちょっと、顔がうるさいですよ」
「おおっと、よいしょよいしょ。さて、ぼくたちが帰る場所は本日のお宿です」
「疲れたので近いところがいいですね」
「遊園地に併設されたホテルを取りました。キャラクターがお出迎えしてくれますよ」
「……ん? それってつまり」
「夢はまだまだ終わりませんっ」
お読みいただきありがとうございました。
遊園地SSはここまでですが、夢はもう少しだけ続くみたいです。
勇者「あ、ポップコーン買い忘れました」
魔王「こちらに」
勇者「やったぁ。……って、入れ物がおばけうさぎじゃないですか」
魔王「遊園地のポップコーンの醍醐味ですよ」