356.会話 遊園地に来た話その⑦・空中ブランコ
本日もこんばんは。
今日も今日とて回る勇者さん。
「人間って回るのが好きなんですか? 神様の手のひらの上で転がされているのに?」
「こちらは、どちらかというと空を飛びたい方の具現化だと思いますよ」
「空中ブランコね……。地に足をつけて生きろとあれほど」
「とは言いつつも、ちょっとうれしそうですね?」
「見た感じ、風が気持ちよさそうだなと。命綱もあるので安心です」
「そこそこ高さがありますけど、だいじょうぶですか?」
「まだ景色を見ていないので、多少の高さは許容します」
「景色用のアトラクションは別にご用意していますが、何はともあれぼくたちの番です」
「あああ~、これいいですね。本日何度目かの遠心力を感じています」
「ぐすん……」
「なぜ泣く」
「カメラは危険なので置いておくように言われてしまいました……」
「当然すぎる」
「絶対落とさないのに……」
「スタッフさんにはわかりませんからね」
「空中ブランコ勇者さんを撮るにはもう一度ってことですか」
「そうですが、そうじゃないです」
「勇者さん、二回目の乗車よろしくお願いしますね」
「よろしくされません」
「ぼくのコレクションに愛を持ってください」
「魔王を倒すより難易度が高いです」
「そんなに……?」
「景色を見る余裕はあるものの、思ったより見えませんね」
「景色用アトラクションではありませんからね」
「外側に飛ばされるような遠心力が私の内臓に刺激を与えます」
「とても爽やかなお顔ですが、言っていることが危険ですよ」
「本日何度目かの嫌な予感」
「勇者さん、実は病弱だったんですか?」
「いえ、ただの弱々三半規管というだけです」
「空中ブランコでもだめなんですか」
「人間は地で生きろってことですよ」
「それっぽい理由ですが、魔法使いにはどのように説明するのでしょうか」
「彼らは地でも空でも生きるのでセーフです」
「ああ言えばこう言う、さすが勇者さん」
「褒められている気がしない」
「心の底から褒めていますよ?」
「どうだか。……ふう、終わったようですね。おかえり地面」
「では、ぼくのコレクションのために勇者さんだけもう一度――」
「やっぱり人間は地に這いつくばって醜く生きてりゃいいんですよ」
「もしかして空中ブランコ苦手でした?」
「私は楽しいと思いましたが、私の三半規管は楽しくなかったようです」
「ああ……、ちょっとベンチに座りましょうか」
「まあね、わからなくはないんですよ。誰かの手のひらの上で転がされている方がラクだってことも、浮くような感覚のまま人生もゴールしてしまいたいことも」
「突然なんですか?」
「遊園地には夢が詰まっている。なるほど、そういうことですか」
「どういうことでしょう」
「現実から目を背けて踊り狂い、気づかぬまま空へ……。ふわぁ~……」
「おねむですか?」
「回り疲れました。たまにはこの世界も自転を止めるべきです」
「止めたら大変なことになりますけどね」
「遊園地は回ってばかりですね。懲りずに何度も何度もアトラクションを動かして、一日に何回、あれらは回っているのでしょう。まるで世界の縮図を見ているようです」
「かなりお疲れのようですね。もう帰りますか?」
「まだ元を取っていません」
「お金の心配ならしなくていいですので」
「三半規管を強くする薬ってありますか?」
「ちょっと聞いたことないですね」
「三半規管弱者には人権のない世界ですよ」
「お散歩しますか? 作り込まれた世界なので見ているだけでも楽しめると思いますよ」
「とてもファンタジーですね」
「いつでもファンタジーのつもりなのですが」
「ほら、あの家なんてファンタジーワールドでしか見ませんよ」
「よく見る家ですね」
「あの空中ブランコもファンタジーワールドで……は見ないものですね」
「むしろ特殊な物体ですね」
「ということは、ここは一周回って現実……?」
「その現実は意味が異なりますね」
「うぅ……、目が回ってきました」
「今日はよく回りますねぇ」
お読みいただきありがとうございました。
遊園地のアトラクションって『とりあえず回しとけ』って感じがします。
勇者「空中ブランコよりほうきの方がいいな……」
魔王「魔女のほうきを模したアトラクションもあるみたいですよ」
勇者「もしかしてそれも」
魔王「回ります」