351.会話 遊園地に来た話その➁・おばけ屋敷
本日もこんばんは。
勇者さんがピンチなアトラクション。
「待って待って待って待って離して力が強いなこのぉぉぉぉいやぁぁぁぁぁ」
「ご安心ください。このおばけ屋敷はトロッコに座って楽しむタイプです。勝手に移動してくれるのでご自分のペースをぶっ壊して進むことができますよ」
「なんにも安心できない」
「おばけも従業員さんか作り物ですし」
「そういう問題じゃない」
「驚いた瞬間を写真に撮ってくれる隠しシャッタースポットもあるそうです」
「めちゃくちゃいらない」
「アトラクションのタイトルは『夢と希望と虚無と絶望』です」
「それにゴーサインを出した人は休暇を取るべきだと思います」
「それでは参りましょう~」
「びくともしない力で強制的に座らせられました。遺憾」
「どこ見て言っているんですか? ちゃんと目を開けてください」
「一ミリくらい開けています」
「おや、あそこを見てください。かわいいおばけがいますよ!」
「そんなセリフに騙されませんよ」
「耳が長くてリボンがついています」
「魔族……?」
「流れている音楽も楽しげですねぇ」
「おばけたちの呪い呪われパーティーでも開催しているんですか」
「見ればわかりますよ?」
「むぐぅ……」
「わっ、トロッコにおばけが!」
「……! ど、どこですかどこですか」
「だから、目を開けてくださいとさっきから」
「あ、開けていますよ」
「両手で覆っているのはぼくの幻覚でしょうか」
「覆った下では開いているのです」
「見えていないなら意味ないですよね」
「うわぁ、耳元でやけにかわいらしい声が!」
「トロッコにスピーカーがついているんですよ。ここからおばけの声が聞こえるそうです。『呪ってやるわよぉ~。えはっはうへへぁ~』ですって」
「笑いのクセが強いな?」
「呪いの呪文は『ちちんぷいぷいあそーれ・どっこいしょ!』ですって」
「なに……? そういう路線なの……?」
「おばけの世界に誘おうとする彼女ですが、その理由は死因にあるみたいですね」
「実は悲しい過去があるとか?」
「勇者さんのスピーカーからも同じ音声が聞こえているはずなのですが」
「ギリギリ魔王さんの声だけ聞こえるように塞いでいるので」
「器用ですね。こほん、フリフリのスカートを履く夢を叶えた時のことです」
「微妙に小さな夢だな」
「うれしくてうれしくて春も夏も秋もスカートを履いていたおばけさん」
「着たいものを着ればいいですよ」
「極寒の冬も履いていたそうですが、超絶丈が短かったために極寒の冬を越すことができず、凍死してしまったらしいです」
「それは……うん。あったかい服を着ろよとしか……」
「好きなもののために命を懸ける。愚かだと言われようと、ぼくは尊敬します!」
「不老不死なのに懸ける命があるんですか?」
「ないなら作るまでですかね」
「当然のように言わないでください」
「それはそうと、おばけ屋敷は楽しんでいますか?」
「耳も目も塞いでいるのでなんとも言えません」
「スピーカーに鞄を押し当てて、もはや何の時間かわかりませんね」
「おばけ屋敷のくせに妙にファンシーな音楽は何なんですか……」
「装飾がきれいですよ。ぼくたちは今どこにいるのでしょうか」
「ついに魔王さんまで混乱し始めましたね」
「おばけはたくさんいるのですが、見た目がアレなせいでこわくないのです」
「アレ?」
「気になります? ぜひ目を開けてくださいな」
「そんな誘導には乗りません」
「おっ、この角を曲がったら隠しシャッタースポットだそうです」
「告知したら隠していないんですよ」
「『みんなで写真を撮るわよ! ポーズをとって!』ですって、勇者さん」
「おばけ屋敷って何なんだろうなぁ」
「出口ですね。いやぁ、こわ……くはないですが、楽しかったですね!」
「……目を開けたら、おばけの恰好をしたうさぎたちがお出迎えしているのですが」
「そりゃそうですよ。ここ、おばけうさぎのわくわくホラーアトラクションですから」
「おばけうさぎ」
「対象年齢は三歳から五歳のリトルチルドレンです」
「おいこら?」
お読みいただきありがとうございました。
お土産でも大人気のおばけうさぎ。
魔王「年齢関係なく楽しめますから~」
勇者「道理でスタッフさんの対応がやけに幼いと思いました」
魔王「あれは勇者さんが怖がっていたからですよ」
勇者「怖がってません!」