35.会話 雨の話
本日もこんばんは。
雨の話です。そろそろ梅雨でしょうか。
「雨が降ってきましたね。どこかで雨宿りしましょう。……どうしました、突っ立って」
「いえ、水分補給を」
「雨を直接飲むのはよくないですよ。お水なら鞄に入っているでしょうに」
「出すのがめんどい……」
「怠惰。ほら、風邪を引きますからこっちに来てください」
「だいじょうぶです。私は生まれてこのかた風邪を」
「引いたことないんですか?」
「引きまくってますが死んでいないので」
「基準が生死なのやめてください」
「あー、水は貴重なのにー」
「鞄の中においしいお水があるでしょう。なんでしたっけ、たしか……」
「『雪解け水と地下天然水の戦い』です」
「それです、それ。売り子さんが水も蒸発する熱量でおいしさを語っていましたね」
「はやく買わないと内容量が減る仕組みですね」
「それは密閉に不備があるような……」
「魔王さん、なにか容器ありませんか? せっかく水が降っているのに眺めているだけなんてもったいない」
「降っているのは雨ですよ。その手のお水を飲んでください」
「無料なのに……」
「そこまで落ち込まなくても、お水たくさん買ってあげますから」
「ジュース飲みたいです」
「突然のわがまま」
「雨が降っていると、無料の飲料水だなぁと思い、雪が降っていると無料のかき氷だなぁと思います」
「雪のかき氷はお腹壊しますよ」
「シロップがなくて困っていた時、誤って指をケガしてしまいまして」
「なにをどう誤ったらそのシチュエーションで指をケガするんです」
「滴った血がまるでいちごシロップのように見えました」
「まさか食べてませんよね?」
「鮮血のかき氷……。まあ、好き好んで血の味のするかき氷なんて食べませんよ」
「そ、そうですよね……」
「なにもかかっていない新雪を食べました」
「だから雪はお腹壊しますってば」
「個人的には、雪より雨の方が好きですけどね」
「雨もお腹壊すからダメですよ?」
「そうじゃなくて、音がするじゃないですか。雨音」
「ざあざあ、しとしと、がたがた……とかですか?」
「自然音は気が紛れていいんです。人の声はザラザラしていて耳障りなので」
「……ぼく、黙った方がいいですか?」
「構いませんよ」
「ぼくの声は心地よいということでしょうか。わぁい!」
「雨音にかき消されるので」
「聞こえてない判定だった」
「それに、魔王さんの声はザラザラしていませんし」
「え? なんて言いました? すみません、思ったより雨音が強くて」
「いえ、お腹すいたなぁと」
「勇者さんはいつもそれですね。雨がやんだら何を食べましょうか」
「水ようかん、ところてん、そうめん、うどん、そば……」
「どことなく水属性っぽいラインナップですね」
「一周まわってステーキ」
「火属性だ」
「ああ、眠くなってきました……」
「雨音は心地よいですからねぇ。しばらくお昼寝にしま――」
「すやぁ」
「もう寝てる……。それにしても、こうしているとほんとうにただの女の子ですねぇ……。うーん、雨音で寝息が聞こえなくてそわそわしま――」
「ハッ‼」
「どっ、どうしました?」
「いま、そうめん、うどん、そばを三銃士に……、いえ、三麺士にして侍らせた水ようかん大将軍が無敵の戦艦を率いて突撃してくる夢をみました……」
「ところてんはハブですか?」
「ところてんは敵軍の砲弾に当たって飛び散りました」
「ぐろ……くはないですね」
「私はその残骸を泣きながらかき集めてタレにひたして食べました」
「涙を流すシーンですか?」
「雨が降っているからでしょうね」
「罪な雨ですね」
「三麺士、私もほしいです」
「よくもまあそれだけカオスな夢をみるものですね」
「罪な雨のせいですよ」
お読みいただきありがとうございました。
「水ようかん付き三麺士セット」2450円(税込)
魔王「その夢、おもしろそうなのでぼくも見たいです」
勇者「今日の夕飯に召集しましょうか」
魔王「ところてんも出番ありそうですね!」
勇者「いや、奴は死んだ」
魔王「悲しきかな……。涙が雨のように……ぐすん」




