349.会話 勇者さんが溶けた話
本日もこんばんは。
暑くなってきましたね。暑すぎますね。
「ゆ、勇者さん……⁉ ぼくがちょっと目を離した隙に暑すぎて溶けてしまったんですか⁉ そんな……、そんな勇者さん! 勇者さぁぁぁぁぁぁぁん!」
「やかましいですね」
「アッ! 勇者さん! よかった形ある!」
「汗が気持ち悪かったのでシャワーを浴びてきただけです」
「ぼくはてっきり、勇者さんが溶けちゃったのかと思いましたぁ……」
「暑くて溶けるっていっても、本気で溶けるわけないじゃないですか」
「だってぇ……、大の字で寝っ転がっていた勇者さんの服が大の字のまま置かれていたので、大の字状態で消えてしまったのかと……」
「畳むのがめんどう」
「脱いだ後に、再度大の字に置く方がめんどうな気が」
「今日の暑さを表現しているのです」
「夕飯の買い出しがてら、アイスも買ってきましたよ~」
「お風呂上がりの一本は五臓六腑に染み渡りますね」
「棒付きアイスが体を冷やしてくれることをそのように表現する人は初めてです」
「むしゃー」
「ぷはーみたいに言わないでください」
「はおーはんもたへはふは?」
「くわえたまましゃべったら危ないですよ」
「アイス食べているのに暑いです……」
「また大の字になってしまいました」
「こんな世界は滅んでしまえ……」
「暑いからという理由で世界滅亡を望む勇者も初めてですよ」
「汗を流すためにシャワーを浴びたのに、出てくるまでに汗をかいたら意味ないです」
「今日は特段暑いらしいですよ」
「魔王ぱぅわぁーでどうにかしてください」
「勇者さんがどんどん人の形を失っていく……。割といつもですけど」
「暑い……。嫌だ……。人間辞めたい……」
「勇者さん、暑さにも寒さにも弱いですよね。人間はか弱い生き物です」
「魔王さんだって暑い寒いは言うくせに」
「人間に合わせて暮らしているとつい出ちゃうんですよ」
「人外の高みの見物ってやつですか。このやろめ、アイス食べるな」
「そんな。アイスは夏の楽しみだというのに」
「魔王さん、氷魔法使えないんですか? 暑いので私を凍らせてほしいです」
「布団がふっとんだ!」
「………………死にたいんですか?」
「なんだかいつもよりも間が怖かったです」
「くだらないギャグを言っているヒマがあるなら太陽を消してきてください」
「それはちょっと世界が終わるといいますか」
「暑い……。無理……。一枚しか着ていないのに熱がこもって生きるのが難しい……」
「薄めのバスローブなんですけどね」
「脱ぎたい……」
「いっ、いけません勇者さん! それを脱いだら年齢制限ですよ!」
「なに言ってんですか。ただの布ですよ」
「勇者さんの価値観、たまにバグってますよね」
「それに、お布団を被れば同じようなものです」
「お布団を被った方が暑いと思うのですが」
「どんな気温でも私だけには適温になる魔法がほしい……」
「勇者さんには最適ですね」
「暑くてなーんにもやる気が起きません。息もできません」
「息はしてください」
「もぞもぞ……、ぽいっとな」
「あ、お布団の中から勇者さんの残骸が」
「まだ暑い……。ドウシテ……」
「いやだから、お布団を被っているからですってば」
「この世界はおしまいです。もう滅ぼすしかない」
「暑すぎてまともな思考ができていないようですね」
「人間って何度から溶けるのでしょうか」
「今日の気温は三十五度だそうです。勇者さんは溶けましたね」
「魔王さんじゃなくて太陽が人間を滅ぼすじゃないですか。もう魔王さんの出番はなし」
「言い切りましたね。ぼくより太陽がこわいですか」
「そもそも魔王さんが怖いことない……」
「威厳の欠片もない」
「いっそ、溶けた方がそれっぽいと思いますよ」
「勇者さんを超える溶け方は難しそうですね」
「これからはスライムになろうかな」
「なれませんし、なったら大変です。あと、服は着てください」
「えぇー……、こんなに暑いのに……」
「当然です。冷房ついていないんですから」
「……あ」
お読みいただきありがとうございました。
文明の利器の力を頼って生きていきましょう。
魔王「冗談かと思いましたよ」
勇者「その考えがあんまりなくて」
魔王「まじで死ぬので気をつけてください」
勇者「魔王さんの目が本気だ」