345.会話 グリモワールの話
本日もこんばんは。
グリモワールってとてもファンタジーっぽいですよね。そうです、恒例のファンタジー回です。
「道端で拾った本が真っ白で何も書かれていないのですが」
「勇者さんは本を拾う才能があるんですか? それとも道に本が落ちていることは特段珍しいことではない世界なのでしょうか」
「あいにく世界のことは専門外ですね」
「ぼくもです。ですので、知っていることをお伝えしますとそれはグリモワールですね」
「また知らんやつきたな」
「魔導書という意味でして、簡単に言えば魔法の教科書です」
「これを読めば私もつよつよなんちゃって魔女に?」
「なれるかもしれませんね」
「そうさせないために真っ白なのでしょうか。おのれ世界」
「怒りの矛先が広すぎますが、グリモワールは魔力を使わないと読めないのですよ」
「あ、すごい。ファンタジーっぽい。いい調子ですよ」
「いつもファンタジーのつもりなんですけどね。本を持って魔力を流すと、ほら」
「おお……。文字が浮かび上がってきました。なになに……? 『魔法は使用者の心に左右されるものなり。芯を持ち、精神力を高め、心の安定を図ることすなわち、強い魔法使いの必要条件である』」
「入門書のようですね」
「『基礎五原則を理解し、己の魔力の質を知ること、また魔法使いの使命なり』」
「すらすら読めるようになりましたねぇ」
「『当グリモワールを読破した者は魔法において最も重要なことを知るであろう。我はそれを最後に記し、筆を置く』」
「序文だったんですね。おそらく、次のページから魔力の使い方などが……勇者さん?」
「最後のページを見ろってことですよね」
「違うと思いますけど……」
「あ、これですね。魔法の奥義」
「違うと思いますけど……」
「えーっと、『つまるところ、魔法は使用者の魔力量による。あらゆる魔法の知識、技術、素質、その他諸々は魔力によって押しつぶされる。どんなに極めても魔力量で負けるんだよこんちくしょー!』だそうです」
「私情が入り込みまくっていますね。書いたの誰なんですか」
「名前は書いていませんね」
「ですが、書かれたことを鵜呑みにしてはいけませんよ。魔力量がすべてを凌駕するなんてよっぽどのことでない限りはありませんから」
「一般ピーポーは大人しく知識や経験を蓄えろってことですか」
「きみは特殊なタイプですが、魔法を使う者であることに変わりはありません。グリモワールを読んで勉強するのもひとつの手かと」
「読むために魔力を使うのがめんどい」
「ぼくが魔力をこめますから」
「時間制限付きはちょっと」
「では、僭越ながらぼくがお隣で常に魔力を注ぎましょう」
「それはうざ……ええと、邪魔です」
「言い直す意味がありませんでしたね」
「そもそも、魔法って読んで学ぶものなんですか?」
「文章にすることで理解できることもあるのですよ」
「なるほど。たしかに会話ではわかりませんでした、魔王さんが何言ってるのか」
「そんな。で、では、手紙にしたためますからしばしお時間を!」
「グリモワール式だったら燃やしますよ」
「ただでさえ怠惰な勇者さんに魔力を使わせるようなことしませんよ」
「これまでの蓄積が魔王さんをこうしてしまったのですね。謝りませんけど」
「手紙を書く間、せっかくですしグリモワールを読んでいてくださいな」
「読んだところで私のようなイレギュラーは弾かれるのです」
「それっぽい理由を言っていますが、読むのがめんどくさいだけですよね」
「勇者向けに書かれた魔導書はないんですか?」
「ううむ……。見たことはないですねぇ。あ、でもあるとすれば……」
「すれば?」
「魔法学院ならあるかもしれません」
「学校はちょっと」
「あ、本閉じた」
「焚き火行きになりたくなければ勇者にもできる超強魔法を教えなさい」
「グリモワールに圧をかける人は初めてです」
「うんともすんともぐんともえんとも言いません。だめだこいつは」
「本がしゃべったら勇者さんは放り投げますよね」
「違います。魔王さんに投げることで攻撃する技です。魔法より物理ですよ」
「魔法が苦手だからってそんなこと――ちょい、角がめり込んで痛、痛いです」
「大抵のことは力で解決できます」
「お金の話をしていますか? どうぞ金貨です」
「…………」
「無言で金貨を投げないでください! 地味に痛い! 地味痛金貨!」
「グリモワールに『投げ銭』という技が書かれていましたよ」
「意味違いますし、書いた人は魔法使いをやめた方がいいです」
お読みいただきありがとうございました。
魔力をこめて読むグリモワールは書く時も魔力を使います。
勇者「お金を投げる技じゃないんですか?」
魔王「投げはしますが、意味が違うというか……」
勇者「やっぱり魔法ってよくわかりません」
魔王「とりあえずこのグリモワールは燃やしますね」