344.会話 金平糖の話
本日もこんばんは。
金平糖って可愛くてきれいでおいしくて強そうですよね。そんな話です(違います)。
「勇者さんが金平糖の入った瓶の前から動かないまま早一時間が経ちました」
「これが食べ物なんですね……」
「食べていいですよ?」
「んむむぅ……。食べ……、食べる……、これを……」
「勇者さんが食べ物を食べないなんて珍しいですね。もしや体調が?」
「いえ、元気です。高価なものではない……んですよね?」
「普通のお菓子程度の値段ですよ」
「ほおお……。高そうなのに……」
「あの、食べないんですか?」
「もしかして腐りますか⁉」
「あ、いえ、賞味期限は数か月から一年ほどあります。長いものでは五年も」
「長持ちするんですねぇ……」
「た、食べないんですか?」
「食べ……ます」
「そう言いながら眺めているだけなのですが」
「だってこれ、天使の涙が天界から落ちて結晶化したものなんでしょう?」
「どうしたんですか突然ロマンチックなことを言って」
「本に書いてありました」
「つかぬ事をお伺いいたしますが、作者は?」
「かぐやさん……」
「勇者さんも『たぶん違うんだろうな』って顔しているじゃないですか」
「作者を改めて思い出すと現実を見るものですね」
「金平糖は天使の涙の結晶ではなく、砂糖を使って作るお菓子のことです」
「よかったです。実は私、心配していたんですよ」
「ロマンチック具合に?」
「ずいぶんカラフルで角ばっているので目の病気なのではと」
「体調の心配」
「こんな色の涙が流れたらびっくりして涙も引っ込みます」
「ぼくはびっくりして心臓が飛び出します」
「魔王さんは出たところで問題ないじゃないですか」
「絵面がやばくなるでしょう」
「そうですね。心臓をぶら下げたひとと一緒に歩きたくないです」
「であれば、のんびりゆったり金平糖を食べながらおしゃべりしましょう」
「甘いですね、これ」
「砂糖菓子だとわかった途端にがっつり食べましたね」
「食べられる宝石みたいでかわ――、いや別に何も思っていません」
「甘さに絆されて感情を素直に吐露しようとしたが我に返って無感情をキープしようとするも金平糖のおいしさには勝てないために微妙に頬が緩んでいる勇者さんかわいいです」
「い、いちいち説明するなってんですよ」
「ファインダーも勇者さんを捉えて離しません」
「それは魔王さんの匙加減です」
「金平糖おいしいですか? もっと食べてもいいですよ。桃色黄色青色緑色白色」
「魔王さんの圧は置いといて、本当にカラフルですね。不思議です」
「てのひらに小瓶を置いて物珍しそうに赤い目を向ける勇者さんの様子が幻想的かつ愛くるしいのでぼくの目にはきらきらと光る金平糖に囲まれるきみが見えています」
「幻覚なので病院へ行ってください」
「天使の涙の結晶だと思っていた勇者さんも大変可愛らし――」
「掘り起こすな」
「そこでぼくは思いました」
「ちゃんと聞いた方がいいですか?」
「金平糖を食べながら意識を三十五度くらい傾けてくだされば結構ですよ」
「結構低いですね」
「勇者さんはまだ知らないことがたくさんありますね」
「ほうれふねばりばり」
「きみが知らないものをすてきな知識で彩ってお伝えすれば、超絶ロマンチックですてきできゅーとで魅力あふれて限界突破大気圏突き抜け系勇者さんが誕生します」
「なに言ってるんだろうこのひと」
「ちなみに、金平糖の形は流れ星のかけらをイメージしているそうですよ」
「へえ……。たしかに、ちょっと星みたいです。色とりどりの星なんてきれいですね」
「うぐっ…………」
「なんで震えているんですか」
「貴さと罪悪感が同時に押し寄せているものでして……」
「へえ、そうですか」
「安心と信頼の興味なさげな勇者さん」
「魔王さんは食べないんですか?」
「ぼくは例のごとく見ているだけでお腹いっぱいなので」
「甘党なのに」
「砂糖よりもぼくを満たすものがあるのです」
「あー……、鈴木か田中?」
「いえ、佐藤。……って、なんの話ですか」
お読みいただきありがとうございました。
オチに困った天目は誤変換をそのまま使いました。
勇者「佐藤がこんな風になるなんて驚きです」
魔王「砂糖です」
勇者「やっぱり佐藤は甘くておいしいですね」
魔王「砂糖ですってば」