341.会話 かくれんぼの話
本日もこんばんは。
我が家のうさぎさんがいなくなったので慌てて探したらタオルの上でくつろいでいたことがあります。
「勇者さん、ぼくとかくれんぼをしませんか?」
「まずは何を企んでいるのか吐いていください」
「きらきらは絵面的にちょっと」
「内臓ごと引きずり出しましょうか」
「冗談ですよう。勇者さんのお顔は冗談っぽくありませんけど」
「どうせ、『かくれんぼで勝ったらぼくの用意した服を着て、ぼくの考えるシチュエーションで写真を撮らせてください!』とでも言うのでしょう。嫌です」
「ぼくの真似をする勇者さん最高ですね。動画に撮りたいのでもう一回」
「残念ながら魔王さんは私に勝てませんよ」
「ずいぶん自信がおありのようですね」
「得意ですから」
「では、六十秒数える間に隠れてくださいな。ぼくが見つけに参ります。いーち、にー」
「あっと驚くといいですよ。存在ごと消す私の技を見て」
「さーんちょっと待ってくださいカウントストップどういう意味ですかそれ説明を」
「はやく数えてくださいよ」
「油断も隙もないきみのそういうところをスルーしてはいけないのですよ! 説明してくれるまで手を離しませんからね。あと、勝手に握ってすみません」
「仕方ないですね。それでは説明しましょう。ここに毒の入った小瓶があります」
「レッドカード‼」
「やかましいな。まだ小瓶があることしか言っていませんよ」
「没収‼」
「魔王さん、没収の意味をご存じでしょうか」
「強制的に取り上げることです」
「そうですね。でも、取り上げたあとに飲み干すのは違うと思いますよ」
「残っていたら勇者さんが使うおそれがあると思いまして。ぷはー」
「豪快な飲みっぷりでしたね。具合はいかがですか?」
「すこぶる悪いです!」
「それはよかったです。実はそれ、ヤブさんからいただいた魔族を破壊して爆発させて混乱させて性格をおばかにして奇声をあげながら天に吹き飛ばす薬なのですよ」
「なんてもの渡してんですかあのひとは」
「人間である私にはただのおいしいジュースだそうです」
「それならいいのですが……。あ、カウント忘れていました」
「もう六十秒ですね。私の負けです。こんちくしょー」
「もう一度やりますか? 今度は逆で」
「いいですよ。では、私が数を数える間に隠れてくださいね」
「わかりました。いきますよぉ!」
「五億八千六百二十四万九千――」
「八十歳まで生きるとして、秒で換算すると二十五億秒になるそうですよ」
「豆知識ですね。八十歳まで生きるつもりはありませんが」
「勇者さんの貴重な人生を数を数えることで終わらせるなど!」
「かくれんぼしようって言ったのは魔王さんです」
「せめて短くしてください。五秒とか」
「それでいいならいいんですけど」
「ぼくの魔王ぱぅわぁーを使えば簡単なことです」
「かくれんぼで魔王を無駄遣いしないでください」
「無駄遣いて。たまには魔王らしくしようと思ったのに」
「もう手遅れですよ」
「そんな」
「手遅れ魔王さんは今日も元気そうですね。よかったよかった」
「話を逸らしてかくれんぼを終了させようとしていますね?」
「実を言うと、最初から嫌でした」
「実を言わなくても『嫌です』と言っていましたよね」
「私の清き心が本音を漏らしていたようです」
「ものすんごい無表情ですね」
「魔王さんとのかくれんぼが嫌なわけではありません」
「数行前の発言はいずこへ」
「時と場合という言葉をご存知でしょうか」
「もちろんです。時と場合という意味ですよね」
「かくれんぼを行う時と場合はどういうものか、簡単に言ってみてください」
「かくれんぼをやりたいと思った時とかくれんぼをやりたいと思った場所ですね!」
「魔王さんの答えに何かを求めている私はいません」
「そんな」
「私の知る限り、かくれんぼとは多少時間に余裕がある時や暇な時、二人以上いる時に行うものであり、場所は隠れるのに適した遮蔽物があるところでやるべきです」
「そうですね」
「さて、ここで私たちが今いる場所と状況を確認してみましょう」
「どこまでも続く青い空と何も遮るものがない草原……。とても気持ちがいいですねぇ」
「そして目線の先には魔物の大群」
「最高のかくれんぼ日和ですね!」
「おばかさん。薬の効果がありすぎたようです。さすがヤブさん」
「待ってください、ぼくがかくれんぼを提案したのは薬を飲む前なのですがそれは」
「……そういうことでしょうね」
「どういうことですか勇者さんなんで目を逸らすんですか勇者さん」
お読みいただきありがとうございました。
魔物の大群は魔王さんが笑顔で蹴散らしました。
魔王「さて、気を取り直してかくれんぼしましょう!」
勇者「隠れるところが何もないのですが」
魔王「この草の下とか?」
勇者「私のこと、小人か何かだと思ってます?」