表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
334/705

334.会話 てるてる坊主の話

本日もこんばんは。

6月中なら梅雨ですね。ということで、てるてる坊主の話です。

「じゃーん! 完成しました。どうでしょうか? 結構かわいくできたと思うのです」

「また呪いの人形を生み出しているのですか」

「てるてる坊主ですよう。雨が多いので、晴れるおまじないをしようと思いまして」

「いいじゃないですか、雨。一日ぐーたらのんびり昼寝三昧生活」

「勇者さんがまじで一歩も動かないので健康のためにも晴れてほしいのです」

「長生きしたいわけじゃないのでこれでいいんですよ。ねむねむ……」

「ぼくはそろそろお日様が恋しいです」

「魔王のなんか、そういう、なんだ、えいやーって感じのあれで、雨をそぉいって」

「語彙力の命まで危機に瀕しているじゃないですか」

「何も考えたくありません。何もしたくない。息をするのもめんどくさい」

「んもー! 勇者さんが動かないというのならぼくに考えがありますよ」

「人柱てるてる坊主ですか?」

「そんな恐ろしいことはしません。というか、なんですか人柱てるてる坊主って」

「だってこれ、吊るされた人間――」

「こら、そういうことを言わない。想像しない。リボンもついてかわいいでしょう?」

「生贄って殺される前におめかしされるって」

「どこで聞いたんですか」

「昨日観た映画で」

「また変なの観て!」

「ぷらーんと吊るされたてるてる坊主から『……けて』と声がするんです」

「ホラー映画ですか?」

「耳を澄ますと、その声が一気に鮮明になるのです」

「うえぇぇ……。ぼくは耳を塞ぎますからね!」

「『テレビつけて……』」

「テレビかい」

「観たい番組があったんでしょうね。雨の日は家でテレビ。私もよく映画を観ますよ」

「てるてる坊主は晴れを望んで吊るすんですよう」

「では、家でテレビ派のてるさんは意図的に晴れさせないようにしているのでしょう」

「また知らん人が」

「晴れを望んだ人によって人柱となったてるさん。彼女はその恨みから決して晴れをもたらすことのない雨女になるのです」

「ぐーたらしている時の勇者さんって意外と頭を動かしていますよね」

「高い位置から人間を見下すように見下ろし、映画観賞に勤しむのです」

「そこそこ楽しんでいるようで何よりですよ」

「きれいなハンカチとリボンでおめかしされているのも、てるさんの魂を慰めるためのものだと考えるのが妥当です」

「ぼくの所持品がそれだっただけですけどね」

「何年も何年も人々の不幸を願い、雨を降らし続けたてるさんに転機が訪れます」

「天気だけに……とは言わない方が身のためですね。ぼくの」

「どこへ行くにも雨ばかり降る雨女に出会うのです。しかし、彼女はとても心の優しい人で、大事な日に雨が降っても『雨の後は虹がかかるから』とにこにこ」

「すてきな人ですね」

「そして、彼女の結婚式の日」

「唐突」

「その日もやはり雨。彼女はてるさんにこう言いました。『今日も雨が降ってよかった。あなたに私の晴れ姿を見せることができるから』と」

「ぼく、ちょっと泣きそうなんですけど」

「それを聞いたてるさんは、自分の中に燻る恨みが消え、悲しみの雨が降っていた心に太陽の光が射しこみました」

「てるさん!」

「てるさんは思い出しました。自分のほんとうの使命を。そして、『照る』という自分の名の意味を」

「てるさぁぁぁぁぁん‼」

「次の瞬間、優しき雨女さんの結婚式が一気に晴れるのです。雨女が驚いて見上げた空には七色の虹がかかり、彼女を祝福するようにどこまでも続いていたのでした」

「よがっだですねぇぇぇぇぇ! うわぁぁぁぁぁん!」

「というのが、てるてる坊主に秘められた物語です」

「とてもすてきなお話でしたよぉぉぉ」

「嘘です」

「だと思いましたけど」

「なーーんにも考えずにしゃべりました」

「よくもまあそれだけ出てくるものです。ですが、ぼくは楽しかったですよ」

「魔王さんの『雨で退屈』という顔がうるさかったので」

「きみの空言物語で雨の日も好きになれちゃいますよ」

「そういえば、魔王さんの考えって何だったんですか?」

「え? あぁ、勇者さんと添い寝しようかと――」

「さぁて、映画観ようっと」

「ぼくも一緒に観ていいですか? まあ、また変な映画だとは思いますが」

「『超巨大台風VS新米てるてる坊主と愉快な仲間たち』ですが、よろしいですか?」

「むしろちょっと気になります」

お読みいただきありがとうございました。

新米てるてる坊主の映画はシリーズものです。


魔王「まさか、台風を鎮めるためにてるてる坊主が自らのハンカチで世界を覆うとは……」

勇者「無駄にスケールが大きいですね」

魔王「ラストシーンで主人公の元にハンカチが飛んできたときは泣いちゃうかと思いました」

勇者「水は雨だけでじゅうぶんです」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ