332.会話 プラネタリウムの話
本日もこんばんは。
今日はおふたりがプラネタリウムにやってきたようです。様子を覗いてみましょう。
「勇者さんがよく星を見るようになったので、今日はプラネタリウムに来ましたよ~」
「すやぁ…………」
「まだ始まってないのに!」
「昼寝する施設じゃないんですか?」
「星を見る施設です。と言っても、実際の星空ではなくスクリーンに投影されたもので、優しげな音楽と解説音声とともにゆったりとした時間を過ごすのですよ」
「つまり寝ろと」
「つまり星を見ようってことです。勇者さんが『星座がさっぱりわからん』とおっしゃるので本日はプロの解説を聞こうと思ってきたのです」
「聞いたところで星座がわかるかと言われると違うと思うのですが」
「わからなかったら寝ていいですよ」
「いいんだ」
「お昼寝用の施設ではありませんが、実際に体験するとわかります。まじで眠れます」
「なんだかなぁ」
「ぼくは最後まで起きていようと挑戦したこと数知れず」
「どうだったんですか?」
「成功したことは未だありません」
「ないんだ」
「なかなか手強いですよ。今日もバトルといきましょう!」
「プラネタリウムって戦うところなんですか。……あ、始まるみたいですね」
「今日こそ負けませんよ……!」
「ちゃんと小声」
「絶対に寝ません! 絶対に!」
「そういうのをフラグと言ってですね。それにしても、リクライニングの角度が絶妙で既にうとうと……。おっと、危ない」
「ぐっ……ううう……うぐぅ……んむむむむ……」
「隣からうめき声が聞こえる」
「絶対に寝ない……絶対にだ……絶対……すぅ」
「ちょい?」
「……ハッ! い、今ぼくに攻撃しましたか⁉ 意識が一瞬飛びましたよ」
「穏やかな音楽と解説音声のことを攻撃と表現するのであれば」
「無防備な状態を狙うとはなんと卑劣な……」
「リクライニングの角度がどんどん緩やかになっていきますね。でもこれ、自分で操作するんですけど」
「目の前が暗くなっていく……。勇者さん、ぼくはもうだめかもしれません……」
「別の星座の説明に変わり、室内がさらに暗くなってきましたね。あ、一面に星が」
「視界がチカチカしています。眩暈がひどいようです……!」
「満天の星空ですねぇ。せっかくですし、懐中時計も開いておきましょう」
「空から一筋の光が! きっと強力な攻撃です。身構える準備を!」
「流れ星ですね。きれいです」
「ぼくをここまで追い詰めるとは、人間のくせにやるじゃないですか……」
「セリフは魔王っぽいんですけどね。この体たらくですからね」
「勇者さんもギフトをもらえるならプラネタリウムにした方がいいです」
「施設ごと?」
「空間を創るんです。固有魔法『プラネタリウムワールド』はいかがでしょう」
「ギフトなのか魔法なのかハッキリしてください」
「頭がふわふわして思考がうまくできないのです。まさしく勇者の力ですよ」
「解説している人は従業員ですよ」
「かなり強い力を持っているようです。油断は禁物ですよ、勇者さん」
「その言い方だと従業員が魔族になります」
「勇者さんを夢の世界に連れていかれる前にぼくが倒します。精神持っていく系の能力、ほんと嫌いですまじで嫌です消えてなくなれいつも勇者さんばっかりこのやろー!」
「プラネタリウムに来ると正常な判断能力が低下するんですか」
「絶対に許しません……。ぼくも一緒に連れていけ……」
「連れて行かれそうになっている真っ只中ですよ」
「まぶたが重い……。この睡魔に抗うのは魔王であるぼくですら至難の業。それでも立ち向かう人間たちのなんと愛おしいことよ……」
「プラネタリウムに来ると人間への慈しみが増すんですか」
「ぼくはとんでもなく危険なところに勇者さんを連れてきてしまった……。ぼくのばか! 密室空間に暗闇、寝そべり状態ですぐに戦闘態勢に移れない。危険すぎます」
「ふわぁ~、眠たくなってきました」
「だめです勇者さん! 今すぐ起き上がってここから脱出しなくて、はぁぁ~……」
「椅子にめり込んでいきますね」
「強力な重力を感じますぅ……。勇者さん、気を確かにぃ……」
「お気遣いありがとうございます。ひとついいですか? どの口が」
「ぼくはもうだめかもしれません……。勇者さん、ぼくがいなくなっても強く生きてくださいね……」
「それ私のセリフ」
「すやぁ……すぴよぴよ……むにゃ~……」
「まったく、忙しなくて星を見ている暇がありませんね」
お読みいただきありがとうございました。
プラネタリウムは昼寝する施設だと思っています。
勇者「結局、最後まで起きませんでしたね」
魔王「いやぁ快眠……」
勇者「実によく寝ているのでいつでも殺れそうでした」
魔王「やだぁ物騒……」