330.会話 リボンの話
本日もこんばんは。
おふたりが手芸用品店を見つけたようです。様子を見てみましょう。
「おっ、手芸用品店がありますよ。わぁ~、かわいい布やリボン、ボタンに見本のぬいぐるみまで! いいなぁ、ぼくが器用だったらなぁ……」
「手芸用品……。あの、ちょっと寄ってもいいですか?」
「もちろんです。何かほしいものがあれば言ってくださいね。ぼくの財布が火を吹――」
「いえ、自分で払います。銅貨がありますので」
「おや、よいのですか?」
「はい。魔王さんのお金で買ったらミソラに怒られてしまいそうなので」
「ミソラさん? もしかして、ミソラさんのおめかしですか?」
「……まあ」
「おやおやおやおや、すてきではないですかぁ!」
「うるさいです。顔も」
「いやぁ、だって勇者さんがご自分から行動を起こすなんてぼくはうれしい……んですけど、ミソラさんだけじゃなくてぼくもおめかししてもいいんですよ?」
「なに言ってんだこのひと」
「ぼ、ぼくもおめかしのしがいがある見た目だと思うのですよ」
「…………」
「アッ、理解不能っていう目をしている」
「ミソラはぬいぐるみです……」
「そうですね……」
「何がいいかなぁ。……こういうの、経験がないのでよくわかりません」
「以前、ほしいものがあるけど見つからないとおっしゃっていましたが、何をお探しだったのですか? ミソラさんに怒られない範囲でお手伝いしますよ」
「……リボンをつけてあげたいな、と」
「ふむふむ。リボンですか。とてもよいと思いますっ!」
「声量バグ?」
「何色をお求めですか? 手芸用品店なのでいろんな種類があると思いますよ」
「えっと……。ミソラは青い目と白い毛並みをしているので、金色が似合うんじゃないかと思って……」
「金色? ほう、それはまたなにゆえ?」
「青は空、白は雲だと思ったら星が思い浮かんできたんです。夜空の青はもっと濃い色ですし、暗くて白い雲なんか見えませんけど、この子はぬいぐるみだから……」
「青い海、白波、太陽の光で輝く水面も金色といえるかもしれませんね」
「そう! 私も思いました。だから、ミソラには金色が似合うと思って――って、なんで笑っているんですか」
「笑ってません。微笑んでいるのです。にこやかなだけです。慈しみの感情です」
「絶妙に信用ならないこの感じ、なんなんでしょうね」
「こほん、そういう理由であれば金色を許可いたしますよ」
「突然の上から。今まで許可していなかったんですか?」
「色が色なので理由を訊かねばと思いまして……。ともあれ、金色のリボンですね。こちらにリボンコーナーがありますよ。お好きなものをどうぞ」
「うわ、いっぱいある。ミソラに意思があったら、どれがいいか訊くんですけどねぇ」
「そう言う時は直感ですよ。びびっときたものを選ぶのです」
「静電気?」
「それはびりっ」
「刺されるくらいの衝撃がきたものを選びます」
「それはぐさっ」
「最初からリボンの形で固定されているものもあるんですね。結ばなくていいのか」
「めんどくさがり屋の勇者さんにぴったりですね」
「提案した人は同士ってことですね。仲良くできそう。したくないけど」
「ぼくもおめかししようかなぁ」
「これとかどうです?」
「でっか。顔の半分がリボンになりますよ。新しい妖怪ですか」
「妖怪も多様性の時代です。こわいよりかわいい方が話も広まりますよ」
「感情のこもっていない声で言わないでください」
「リボンを結ぶふりをして魔王さんの首を絞めていいですか?」
「よくないですけど?」
「だめかぁ」
「絞めるならちゃんとした紐を使わないと。リボンだと滑ってズレますよ」
「着眼点がズレてるんだよなぁ」
「ある程度締めたらチョーカーとして使いますよ。リボンチョーカーですね」
「当然のように言わないでください」
「かわいいですよ? チャームをつけるとよりワンポイントが引き立ちます」
「……そうですか。でも、首に何かをつけるのはちょっと……」
「……。こほん、さて、すてきなリボンは見つかりましたか?」
「魔王さんとすれ違う会話をしている間にばっちり見つけました。ふふん」
「すれ違ったかいがあるというものですよ」
「自覚あったんかい」
「いやぁ、あはは。それ、ミソラさんにつけてあげるのが楽しみですね」
「えぇ。きっとよく似合うと思います。見た瞬間にざくっときましたから」
「それはケガ」
お読みいただきありがとうございました。
ミソラのおめかしタイム。
魔王「今度はぜひぼくにも……」
勇者「お金がなくなりました」
魔王「また謝礼をもらう日までおあずけですか……」
勇者「いつになることやら」