33.会話 日焼けの話
本日もこんばんは。
日焼けの話です。ここのところ暑くなってきたので気をつけてお読みください。
「暑い……。溶ける……。液体勇者が爆誕してしまう……」
「そりゃあ、真っ黒いローブを羽織ってフードを被っていたら暑いに決まってますよ」
「焼けるじゃないですか」
「太陽には当たらないと体がだめになりますよ。多少、日焼けもしないと」
「焼けるのは焼肉だけでいいんですよ」
「日焼けがいやだなんて、勇者さんも女の子ですし美容には気をつけているんですねぇ」
「美容なんてどうでもいいです。暑いのがいやなだけです」
「隠さなくていいんですよ。体を隠しているローブは脱いだ方が良さそうですけど」
「絶対的に私の頭上から光を当ててくるあの灼熱野郎が気に食わないんです」
「灼熱野郎って太陽のことですか。初めて聞くあだ名ですね」
「どこにいても消えないのも腹立ちます」
「暑さは苛立ちを増やすとかなんとか。冷たいものでも食べますか?」
「アイスで……」
「はーい。それにしても、そんなに姿を隠さなくてもいいのに」
「髪をさらしている方が、光が集まる気がするんです」
「黒髪と黒ローブですからどっこいどっこいですよ」
「というか、魔王さんはなんでそんなにオープンなんですか」
「日光浴ですよ。ぽかぽかです~」
「オノマトペ間違ってますよ。じりじりです」
「こうも天気が良いと気分も晴れやかになりますねぇ」
「せっかくの白い肌が黒焦げになりますよ」
「だいじょうぶです。魔王ぱぅわぁーでガードしていますから」
「めちゃくちゃ弱そうな名前なのに効果が強いですね」
「そもそも姿は自由に変えられますからね」
「はい? それちょっと詳し――」
「勇者さんも健康的な日焼けをしましょう。えいや~」
「うわっ、取らないでください。ちょっ、例のごとく力が強いな、おい」
「勇者さんの脱皮です」
「人を爬虫類みたいに言わないでください」
「いつも思っていましたけど、勇者さん、色白ですよね。だから余計に……」
「赤目が目立つでしょう」
「ぼくは好きですよ?」
「私はきらいです」
「それならさらに日焼けした方がいいのでは? 松坂勇者になりましょう」
「いやすぎる……」
「わがままですねぇ」
「日焼け具合が極端なんですよ。ただでさえ黒要素が多いんだから、どこが顔だかわからなくなります」
「……ちょっと面白いですね、それ」
「なに笑ってんですか」
「勇者さんって外での仕事が多いイメージですけど、日焼けしないもんですか」
「建設業かなにかだと思ってます? 単純にこういう日は引きこもるんですよ。動きたくもない」
「怠惰なだけでした。でも、色白に赤目、黒と赤を基調とした服、ローブにフードってなんだか吸血鬼みたいですね」
「実際の吸血鬼をご存じの魔王さんが言います? ほんとにそのイメージなんですか?」
「いえ、多種多様ですよ。ぼくにも偏見はありますから」
「逆に、色黒で露出多めの吸血鬼っているんですか?」
「いるでしょうね」
「吸血鬼って太陽の光に当たったら死ぬんですよね? どうやって日焼けするんですか」
「ああ、その辺はいろいろありますから。吸血鬼に会った時にでもお話しますよ」
「別に会いたくないですけど。血吸われそうですし」
「そんなことぼくがさせませんよっ!」
「迫真ですね。いざという時は魔王さんを盾にします」
「頼られ……いや、違うか」
「こうして太陽光に焼かれていると、鉄板の上の肉の気分になりますね。今日の夕飯は焼肉一択です」
「焼かれる肉の気分になりながら肉を食べるんですか。特殊な性癖してますね」
「相手の気持ちになって考えなさいと教わりませんでしたか」
「合っているようでまったく違う……」
「今度、サウナ行きましょうか」
「蒸し暑くて勇者さんが嫌いそうなのに……。構いませんが、珍しいですね」
「炊かれる米の気持ちを味わいに」
「炊かれる米」
「あと、温泉にも行きましょう」
「あ、待ってください。当てます。えーっと、温泉なので……、しゃぶしゃぶですか」
「いえ、汁に溶かされる味噌の気持ちです。味噌汁爆誕物語です」
「ぐうう……、惜しい」
「ていうか、しゃぶしゃぶの温度は人が死にますよ」
「ハッ⁉」
お読みいただきありがとうございました。
魚を焼くときはいつも魚の気持ちを考える天目です。
勇者「捕まえた小型雑魚をフライパンの上にのせてみました」
魔王「ぷるぷる震えていますね」
勇者「これを直射日光にさらし続ける実験です」
魔王「なにゆえ……。あれ、どこ行くんですか?」
勇者「飽きたので旅の続きをしようかと」
魔王「もうちょっと、もうちょっと慈悲を……って、行くならちゃんと殺らなきゃだめですよ」
勇者「今しがた慈悲という言葉を発したとは思えませんね」




