328.会話 基礎魔法の話
本日もこんばんは。
この作品はファンタジーで(略)
「窓の外で、爆速で飛びながら火の玉で魔物を攻撃している魔法使いらしき人物を見たのですが、夢か幻覚か……。魔族という線も考えましたが、魔法使いっぽい恰好していて」
「なら、魔法使いなのでしょう。彼らの見た目はわかりやすいことが多いですし」
「でも、ほうきで飛びながら火魔法を使っていたんですよ。属性二つってあるんですか」
「火魔法を使っていたのなら、その魔法使いは火属性ですよ」
「だってほうき……」
「基礎魔法ってご存知で……知らないから不思議がっているんですよね。失礼しました」
「……また知らんやつ出てきた。なんで」
「では、第四回『教えて! 勇者さん』のお時間です! 基礎魔法は勇者さんのように後天的に魔法を得た者には関係ないので、神様も説明しなかったのかもしれませんね」
「めんどくさくて説明しなかったわけではないのですか。絶対そうだと思ったのに」
「基礎魔法というのは、魔法使いや魔女のように先天的に魔力を持つ者が使える魔法のことです。魔法は五つの属性に分類されることはご存知でしょうが、基礎魔法はその性質に問わずすべての属性の者が使えます。簡単に言えば、初期魔法ですね」
「空を飛ぶ魔法が初期魔法なんですか?」
「はい。とはいえ、安定させるために何らかの道具が必要になるため、彼らはほうきを使うのですよ。道具なしで飛べるのは風魔法を操る者でも難しいですからね」
「魔法使いとほうきのイメージって、あながち間違いじゃないんですね」
「そうなります。もちろん、浮遊魔法は風属性の特権ですから、風属性に勝ることは困難です。まあ、使えるだけで便利ですよ」
「みんな浮遊魔法が使えるなんて……いいなぁ、魔法使い。移動がラクそうです」
「制限はありますけどね。基礎魔法は他にも火をつけたり光を発したり無機物を操作したり……などなど。日常生活に便利な魔法が多い印象ですね」
「ずるい……」
「こればかりは仕方ありませんねぇ。茨魔法を鍛えまくれば、茨を使って物を動かしたり自分を浮かせたり足場を作ったりできるんじゃないですか?」
「めんどくさ……」
「がんばるの苦手ですもんね。ぼくをぐるぐる巻きにするのは得意なのに……」
「定期的に巻いていこうと思います。でもあれ、自分で巻くと手に棘が刺さって痛い」
「手を血だらけにしてまでやることではありません。おやめくださいね」
「私がいろんな魔法を使えたらこれまで以上に魔王さんを……」
「ぼくを?」
「楽しく処刑できる」
「やだぁ……。勇者さんはいばら姫でじゅうぶんですよう」
「魔王さんは基礎魔法……いや、あなたは例外でした。そもそも魔族ですし」
「その辺の魔法使いでも捕まえてきますか?」
「珍しいこと言いますね」
「勇者さんが興味を持つことの方が珍しくてつい」
「私のことになると視野が狭くなるのは似ていますね」
「……誰を想像しています? ぼくのことだけ考えていてください!」
「過激派も同じ」
「待ってください勇者さん。ぼくの方がすごいです。あらゆる魔法を使えますよ」
「だって魔王じゃないですか。それくらいできないとおもしろくないですよ」
「うぐっ……。ま、魔力量だってすごいですよ」
「だって魔王」
「うぐぐっ……。ぼくが負けそうなんですけど、どうすれば……!」
「さっきから誰と勝負しているんですか」
「気にしないでください。負けられない勝負というものが世の中にはあるのです」
「私、少し考えたんですけど」
「なにをですか?」
「私は茨魔法だけ……。今からでも遅くはないので私も使えるようにしてください」
「ぼ、ぼくに言われましても。それに、使えるようになったら使うんですか?」
「…………」
「めんどくさがってぼくに任せるのが目に浮かぶのですが」
「…………」
「ちょっ、ちょっとなにゆえぼくの目を隠すのですか。勇者さんのお顔が見えませんよ」
「浮かぶ目を塞ごうと思って……」
「行動がすべてを表しているのですよ、きみは」
「魔法を使うのって大変なんですよね。疲れるし、準備がいるし」
「そういう割には、必要な時はちゃんと使うきみは偉いですよ」
「知らないことが多いし」
「きみは知らないことがたくさんですからね」
「『教えて! 勇者さん』のコーナーは乗っ取られるし」
「コーナーを活用して勇者さんに伝授しているだけですよう」
「魔王さんは死なないし」
「それはどうしようもないです」
「茨魔法を練習しようとすると絶対ケガするし。ほら」
「ほらって、血! ち、治癒魔法!」
「そういえば、魔王さんは唯一治癒魔法が苦手ですよね」
「きみが勇者だからです!」
お読みいただきありがとうございました。
魔法使いは便利な存在です。
勇者「考えれば考えるほど魔法使いはずるいです」
魔王「勇者さんにはぼくがいるじゃないですか~」
勇者「魔王さんがどうかしましたか?」
魔王「いえ……なんでも……」