327.会話 勇者の収入源の話
本日もこんばんは。
辛うじて持っていたりいなかったりする勇者さんのお金の話です。
「はい、勇者さん。先ほどの村でいただいた謝礼ですよ。きみのものです」
「魔王さんがもらったじゃないですか」
「相変わらずぼくが勇者だと思われていましたからね。ですが、彼らは『勇者』にこの銀貨を払ったのです。つまり、きみですよ。魔物を倒したのも勇者さんです。きみには銀貨をもらう権利があるということです」
「まあ……もらっておきます」
「勇者さんって、お金にあまり頓着がありませんよね」
「隣にとんでも財布がいるので」
「光栄です」
「魔王さんがいいならいいんですけど。……でも私、ほしいものとかありませんし」
「きみが働いたことへの然るべき報酬です。お好きなように使っていいんですからね」
「いつもそう言われるので、いつも食べ物を買っています」
「謝礼があっという間にご飯に変わるマジックですね。いつ習得したんですか――って、頼み過ぎですよ。きみのお金がなくなってしまいます」
「お金ってこわいので持っていたくないんですよね」
「どういう気持ち……」
「ひとりの時は仕方なく持っていましたけど、今は魔王さんがいるからいいかなって」
「ですが、ぼくからのお布施――じゃなくて、お小遣いはもらってくれません」
「こわくて。魔王さんの圧が」
「散財していいんですよ!」
「あまり聞かない言葉ですね」
「躊躇いなく使ってください。喜びます」
「お金が?」
「ぼくが」
「そういうことですよね」
「だってぇ~……。ぼくが働いたお金で勇者さんにはっぴーをもたらすことができると思うと……。にこにこが止まりませんようえっへへへへへ」
「通報待ったナシですが、お世話になっているのでやめてあげます」
「あ、向こうにかわいい服が! ……チラッ」
「いりません。買わないです」
「物欲のない勇者さんですねぇ。もっと軽率に買っていいのに」
「なんだかんだと理由をつけて、魔王さんが私にいろいろくださるじゃないですか」
「それはぼくがあげたいものをあげているだけです。いいですか? ぼくが言っているのは、きみがほしいもののことです」
「特にないです」
「ミソラさんをおめかしするのもいいと思いますよ」
「……少し考えているのですが、ほしいものが見つからなくて」
「おや。ぼくもお手伝いしましょうか?」
「……いえ、自分で探します。魔王さんに頼むとミソラが怒りそうですから」
「そんな」
「冗談ですよ。……でも、普段の対価になにかを買うのはいいかもしれませんね」
「はい?」
「いえ。魔王さんはなにかほしいもの――」
「じっ」
「あ、はい。そうですね。なんか視線で言いたいことがわかりました」
「普段から言いまくっていたかいがありました」
「魔王さんも私以外のことでは物欲がありませんよね。……言ってて恥ずかしいな」
「勇者さんが物欲マックスならぼくの財布も火を吹くんですけどね」
「国でも買ったらいいんじゃないですか」
「お姫様になりたいんですか? いいでしょう!」
「違う違う。魔王っぽく国を支配してみたらいかがですかと言っているのです」
「きみが?」
「魔王さんに決まってんでしょう。ケンカ売ってんですか」
「勇者さんが女王をやる国ならぼくは住みますよ」
「まっすぐな瞳で言わないでください」
「いろんな人が永住権を求めて押し寄せそうですね」
「うわぁやめろ。いやですよ国の偉い人なんてめんどくさそう」
「なにもしなくても税金としてお金が入ってきますよ」
「なにっ」
「まあ、王族というものはいろいろと大変ですけどね。しがらみも多くて勇者さんは窮屈でしょう。嫌すぎてお城を飛び出し、そこで魔王と出会い旅に出る物語……」
「すごく自然に妄想しましたね。ナチュラル過ぎてそうですねって言うところでした」
「このルートの勇者さんもぼくがいるのでお金には困りませんね」
「私を増やすな」
「勇者さんはお金で買えないので、妄想で補うしかないのです」
「キリっとした顔でかなりやばいことを言っている」
「ですが、この勇者さんがなんばーわんですね! 貢がせてください。はい、金貨」
「ナチュラルな動作過ぎて受け取りそうになりました。危ない」
「収入源がお小遣いなら税金で取られることもありません」
「なにっ。……ていうか、税金ってなんですか」
お読みいただきありがとうございました。
税金制度はある国とない国があります。千差万別。
魔王「ぼくがいない時にお金がほしくなったらどうするんですか」
勇者「その辺の人間から巻き上げようかな」
魔王「それは魔族なんですよ」
勇者「細かいことはいいじゃないですか」
魔王「細かくないです」