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326.会話 サインの話

本日もこんばんは。

この世界ではハンコよりもサインが主流です。

「ぼくの日記帳に勇者さんのサインを書いていただきたく!」

「サイン?」

「署名ですね。一般的には名前を書くのですよ」

「魔王さんの私物に私の名前を書く……? どゆこと?」

「ええと、記念といいますか、宝物といいますか、自慢といいますか」

「よくわかりませんが、サインすることは名前を書くことなんですよね?」

「その通りです」

「私、名前ありませんけど」

「ぐっ……! では、勇者さんのサインを作りましょう!」

「名前がないのにサインってどゆこと」

「署名といってもただ名前を書くのではなく、アレンジを加えるのですよ」

「ふむ?」

「かぐやさんの本をいただいたでしょう? たしかあれ、サイン本でしたよね」

「あー、あのらくがきみたいなやつですか」

「あれがサインです。オシャレでしょう?」

「らくがきって言ったの聞かなかったことにしましたね」

「さらさらっとサインを書く勇者さん、コレクションしなくては!」

「でも名前がないんですよ。まずスタート地点にも立っていません」

「サインだけ作ればいいんですよ」

「めちゃくちゃですね。己の欲のために思考を放棄したのでしょう」

「その通りです」

「認めるな」

「いいじゃないですかぁ~。勇者さんのサイン、絶対かっこいいですよう」

「いまいちピンときていません。かぐやさんのサインでよろしいですか」

「よろしくないし、それはいやです」

「めんどくさいですね。書かれることを喜んでくださいよ」

「だるくて横暴になる勇者さん、いいですね」

「わかりました、『魔王』って書きます」

「せめて『勇者』でお願いします」

「魔王さんが意味わからないこと言うから」

「できれば勇者の前に『すーぱーきゅーとでおんりーわんの』と付けていただきたく」

「嫌すぎる」

「露骨にいやそうな顔をしましたが、きみの無表情が崩れただけでうれしく思いますよ」

「うわぁ」

「あ、無表情に戻った。声だけいやそうですね。技術点が高いことをするものです」

「『これは魔王の黒歴史』と書いておきますね」

「サインですらない」

「私の字ですよ。感極まってすすり泣いてください」

「あっ、意外と静かめなんですね」

「泣き喚かれてもうるさいだけなので」

「ストレートに言いますね」

「失礼しました。日記帳に書きますね」

「そういう意味ではなくてですね。ちなみになんて書こうとしたんですか?」

「『感涙にむせぶがいい』と」

「書く時だけ人格が変わってません?」

「私は私であって私ではなくすべて私の可能性を秘めた私だったかもしれません」

「何一つ理解できなかった……」

「『私』というサインはいかがですか?」

「不特定多数がすぎる」

「少なくとも魔王さんではないのでつまり私です」

「毎度のことながらつまっていないのですよ」

「言葉おかしいですよ」

「全部勇者さんのせいですからね?」

「私は魔王さんの欲を満たそうと試行錯誤しているというのにひどいことを言いますね」

「ペンすら持っていないのに」

「おっと。失礼しました」

「それナイフですよ」

「おっと。間違えた間違えた」

「間違えたと言いつつペンに持ち変える気配がないのですが」

「私のサインがほしいと言う魔王さんに提案があります」

「なんでしょう。ナイフをチラつかせているのと関係がないといいのですが」

「日記帳に日々を刻む魔王さんにぴったりのサインですよ」

「こわいこわいこわいこわいなんですかなんですかなんですか」

「魔王さんに私の字を刻みましょう。『勇者降臨』と」

「おそろしいことを言わないでください! ナイフ没収! って、これおもちゃですね」

「そりゃそうですよ。……ところで、なに書いているんですか?」

「ああ、送られてきた報告書にサインを書いているんです。すっかり忘れてましたから」

「…………」

「あれ、なにゆえ不満そうなお顔を? ぼくのサイン、どこかおかしいですか?」

「おかしくないから不満なんですよ」

お読みいただきありがとうございました。

仕事上、そこそこサインを書く機会の多い魔王さん。


勇者「魔王さんも名前がないのに、なんてサインしているんですか?」

魔王「『魔王』と書いていますよ」

勇者「…………」

魔王「あれ、なにゆえ不満そうなお顔を?」

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