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325.会話 ぬいぐるみの話その➁

本日もこんばんは。

第320話『悪夢の話』の数日後のお話です。読んでいなくても問題ありません。

ちょっとシリアス風味ですがいつも通りのSSです。それではどうぞ。

「勇者さん、犬さん猫さんうさぎさんライオンさんなどなど、どれがいいですか?」

「どれ、とは」

「お気になさらず」

「いや、話によっては答えが変わるので――」

「お気になさらず!」

「……。うさぎ、ですかね」

「うさぎさんですか。ほうほう。犬さんではなくて?」

「あれは犬猫どちらかの話だったでしょう。動物の中で選ぶならうさぎです」

「鳥さんも好評だった記憶があるのですが」

「鳥も好きですよ。でも、私は空に生きているのではありません。翼もない」

「うさぎさんは……」

「彼らの生きている場所は地。……昔、思ったことがあるんです。同じ地を踏みながらも彼らの世界はどこまでも広がっていた。まるで、野を駆ける自由そのもののようだ、と」

「自由そのもの、ですか」

「少しだけ、少しだけですよ。私と彼らを隔てるもののこちら側で、羨ましいと思ったことがないわけではない……です。でも、すぐに消えちゃいましたけど。抱いていても仕方のないものですから」

「……。うさぎさんですね。ちょっと待っていてください!」

「えっ、ちょっと魔王さんどこに――って、いないし。一体なんなのやら」

「ただいま戻りました!」

「はや。どこに行っていたんですか。まだ数分しか経っていませんよ」

「すぐそこのお店にちょっとばかり。勇者さん、目をつぶってくださいな」

「また変なことしようとしているんじゃないでしょうね」

「いーからいーから。はい、目を閉じて」

「ちょっと……。はい、閉じましたよ。一体なにを――わっ。な、なに。もふもふ……」

「ぬいぐるみです。うさぎさんの! どうぞ。勇者さんどうぞ!」

「ま、待ってください。なんですか突然。ぬいぐるみ……ほしいなんて言っていません」

「ぼくがあげたいのでぼくのためにもらってください」

「めちゃくちゃだな……。あ、すごいふわふわ……。……かわいい」

「ぬいぐるみには癒し効果がありましてね、リラックスできたり、不安を解消したり。話しかけることで孤独感を癒したり、一緒に眠ることですてきな睡眠を得られたり!」

「……もしかして、私が悪夢を見るから気を遣ったんですか」

「そっ⁉ ……ういうわけではありませんよ。ええ、はい、気まぐれです、はい」

「隠しごとが下手ですね。そうですか、心配……させてしまったのですね」

「ぼくは四六時中きみと一緒にいられるわけではありません。離れなくてはいけない時はあります。ほんとは四六時中一緒にいたいですが。まじで」

「本音を隠すのも下手ですね。ていうか隠す気がありませんよね」

「以前ぬいぐるみを見つけた時はストラップになりましたが、今回はちゃんとぬいぐるみです。抱きしめるのにちょうどいい大きさです。ぜひもらってくださいませ」

「もう買ってしまったあとでしょう。返すのも……変ですから、もらってあげてもいい……じゃなくて、その、ええと、あ……ありがとうございます」

「無理しなくていいのですよ?」

「無理はしていません。いいのかな……と思っただけです」

「ぼくのお金はすべて勇者さんのために使いますので」

「真顔で言わないでください」

「本音ゆえ!」

「それに、このうさぎのぬいぐるみ……。か、わいいとおも、……います」

「……かわいいですねっ……!」

「ですよね。ふわふわで、目もくりくりです。たしかに優しい夢を見られそうですよ」

「……そっちじゃないけど、そうですね!」

「幼い子じゃありませんけど、ぬいぐるみを持っていてもいいのでしょうか」

「年齢関係なし! ひとりの時はうさぎさんをぼくだと思ってぎゅっとしてくださいね」

「それはやだ」

「ぐはっ。で、では、うさぎさんだと思ってぎゅっとしてください。そしてあわよくば写真を撮らせてください。『ぬいぐるみを抱きしめる勇者さん』をコレクションします」

「それが目的ですか」

「一割くらいはそうです!」

「素直でよろしい。お断りします」

「ああん……やっぱりぃ~……」

「……と言いたいところですが、一枚だけならいいですよ」

「エッ⁉ 熱でもあるんですか⁉」

「失礼ですね。ただでいただくわけにはいきませんので、対価としてですよ」

「あっ、いえ、ぼくはそんなつもりであげたわけではなくてっ……」

「わかっています。けど、私が落ち着かないので」

「そ、そうですか。では、お言葉に甘えてパシャパシャパシャパシャパシャパシャ!」

「一枚って言った……」

「ごめんなさい。常時連射モードにしていたもので」

「素直でよろしい。消す気配がありませんけどそれについては?」

「勇者さんまじかわいいですね!」

「ぬいぐるみはお返しします」

「うそうそ! うそですからちゃんと消しますから持っていてくださいぼくの愛!」

「うさぎさんはうさぎさんです」

「持っていてくださいうさぎさん……」

「きれいな青い目をしているのですね。これも選んだんですか?」

「はい。勇者さんの好きな色を……と思いまして」

「…………ふふっ」

「アッ! かわいい!」

「魔王さんうるさい」

「ごめんなさいつい心の声が。でもですね、勇者さんがはいぱーかわいいお顔でうさぎさんを抱きしめているんですよ。かわいいと感想を言わない方が難しいと思いませんか?」

「真顔で言われても」

「難しいのです」

「そうですか。がんばってください。……あれ、魔王さんはぬいぐるみないんですか」

「ぼくは勇者さんを抱きしめますから」

「今すぐご自分用のぬいぐるみを買ってきてください」

「あらゆるぬいぐるみよりもかわいい子がいるのに?」

「私はぬいぐるみじゃありません」

「ぼくは悪夢見ませんから」

「隣にこんにゃくを置きながら寝ても?」

「まず寝られないので夢を見る段階までいかないかと」

「魔王さんの真顔、本気なのかふざけているのかわかりません」

「ぼくはいつでも本気です」

「おりゃ」

「わぷっ。す、すごいもふもふですね。これはもふもふもふ息がッ」

「対魔王さん用に勇者の力でもこめておこうかな」

「おやめくださいまし……」

「ていうかこれ、旅行鞄に入りますかね?」

「すぐに使わない物や不要だと思った物はぼくのポシェットに入れておきましょうか」

「便利なポシェットですね」

「『マオえもん』と呼んでくださっても構いませんよ」

「あぶなっ……いや、ぎりぎりセーフ?」

「うさぎさんを盾に身を守っている……。ぼくの言葉が攻撃かなにかですか」

「うさぎさんは私を守るナイトなのです」

「なんですかそれ! ぼくがやりたいです」

「……魔王さんも似たようなものです」

「なにか言いました?」

「いえ。このうさぎさんは私の勇者パーティーに入るので名前をつけようかと思います」

「ぼくたちの名前すらまだないのに」

「なにがいいでしょうか」

「見た目や色、勇者さんの好きなものなど。愛着の湧く名前がいいと思いますよ」

「マンドラゴラ?」

「どうして」

「耳を持って引き抜くのが似ているかと思いまして」

「うさぎさんの耳は持ってはいけません」

「あなたはどんな名前がいいですか?」

「お返事してくれたらいいですねぇ」

「破壊神ウ・サギ」

「破壊神?」

「己のかわいさを武器に世界を滅ぼす系うさぎさん」

「違う作品になっていく気配」

「なに言ってんですか。私たちはいつも違う作品です」

「いつもってなんですかいつもって」

「魔王さんは出てくる作品を間違えていると思います」

「どういうことですかぁ」

「あなたもそう思いますよね、ミソラ」

「ミソラ? もしかして、うさぎさんの名前ですか?」

「海と空の音を合わせてみたんです」

「勇者さんの好きなものですね。とてもいいと思います」

「きれいな響きですよね。あなたにはよく似合いますよ」

「勇者さんの優しげなお顔……。ぼ、ぼくにもぜひ」

「なにか?」

「あ、いつものお顔」

「ミソラパンチ」

「もふもふっ。えへへ、全然痛くないです――痛いっ!」

「ミソラの隙間から私の大剣を」

「これから気にすることが増えますよう」

「いえ、減りますよ。ミソラがいますから」

「たくさんかわいがってあげてくださいね。……ぼくだと思って!」

「見てくださいミソラのこの顔を。『は?』って思っていますよ」

「そんなわけぇ。……うさぎさん、気に入っていただけたようですかね?」

「……はい。ありがとうございます、魔王さん」

「どういたしましてです、勇者さん」

お読みいただきありがとうございました。

勇者パーティー新加入すらSSで書く、それが『魔王っぽい勇者と勇者っぽい魔王』です。

というわけで、ぬいぐるみのミソラが仲間に加わりましたが、ぬいぐるみなので今後もおしゃべりはいつものおふたりでお送りしていきます。よろしくどうぞ。


勇者「…………ふふっ」

魔王「世界を救うおつもりですか?」

勇者「なんですか突然」

魔王「いえ、ミソラさんを眺める勇者さんがあまりに、あまりに……」

勇者「胸を抑えて苦しそうですね。世界が救われるかもしれません」

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