320.会話 悪夢の話
本日もこんばんは。
風味ではなく完璧シリアスSSですので、「なんてこったい」という方は今のうちに回れ右してくださいませ。
だいじょうぶという方はどうぞ。
「…………勇者さん?」
「……魔王さん。ごめんなさい、起こしてしまいましたか」
「いえ。ぼくも寝付けなかったので起きてきただけです。よろしければ飲み物でも?」
「気にしないでください。だいじょうぶです」
「……。お隣よろしいですか?」
「……お好きに」
「こわい夢を見たときは無理に寝なくてもいいのですよ。ぼくと真夜中までパーティーしましょう! テレビ観たりお菓子食べたり恋バナしたり枕投げしたり~」
「……だいじょうぶです」
「……。ぼくでよければ、もう少し近くに行っても?」
「構わないでください。私にそんな権利はありません」
「ぼくがそうしたいと思っているだけですよ」
「だって、いつもは邪険にしてばかりで素っ気ない私がこんな時だけ……そうしてほしいと望むなんて自分勝手すぎじゃないですか」
「おや! ぼくはくっつくことができて幸せになりますよ?」
「ほんとに思ってるんですか、それ」
「疑ってます? いやですねぇ、ぼくの愛を疑うなんて! かなしみ!」
「耳元で叫ばないでください」
「大きな声で言わないと聞こえていないふりをされるかと思いまして」
「こんな近くにいるんだから聞こえますよ」
「こんな近くにいるのにきみの苦しみを癒せていません」
「……魔王さんには関係ありません」
「あります。ぼくがきみのことを大事にする限り」
「じゃあ、大事にしなくていいです」
「いやでーす。大好きなので大事にします。断られても大事にします。だってぼく、魔王ですので」
「いつもと同じこと言っていますね」
「はい。いつも本心でしゃべっていますから」
「……最近は減ってきたんです。魔王さんと旅をするようになってから、少しずつ」
「……はい」
「でも、ゼロにはならなくて。忘れるなって言われているみたいに」
「…………はい」
「この足枷、魔王さんがすてきな物に変えてくれたこと、うれしかったんです」
「はい」
「……でも、夢の中ではまだ両足にあるんです。鎖で繋がれた模様のない枷が」
「……はい」
「あなたはこんなに旅を良くしようとしてくれているのに、私のせいで悪くなる」
「そんなことはありません。きみのせいではありませんよ」
「放っておけばいいのに」
「ぼくが構いたいんです」
「物好き……」
「勇者さん好きです」
「あなたはずっと変わりませんね」
「これからも変わることはありませんよ。果ての果てまできみが大好きです」
「…………」
「疑っています?」
「……いえ。あなたのことだから、きっと本心なのだろうと思って」
「そうですそうです。わかっていただけたようで何よりです」
「これまでもこれからも、私にはそう言ってもらえるような資格はありません」
「ぼくが勝手に想って思うだけなのでお気になさらず」
「……あなたの気持ちに私が言葉を返せなくても?」
「構いません。きみがそばにいてくれればそれでぼくは幸せです。まあ、返していただけるのなら幸せ過多で死んでしまうかもしれませんが! えへん!」
「死なないくせに」
「言葉の綾です」
「死んでくれれば私の使命は果たされるのですが」
「そればかりはごめんなさいですねぇ。お詫びと言ってはなんですが、他のことであればどんなわがままでも叶える自信がありますよ。どんとこーい」
「いつもわがまま言っていますよ」
「かわいらしくてすてきです」
「褒めてもなにも出ません」
「勇者さんの表情が変わります。つまりぼくの勇者さんコレクションが貯まります」
「言ってることはかなりアウトなんだよなぁ……」
「もういいかなーって」
「さらけ出す方針にしたんですね。割と最初からそうでしたよ」
「いやぁ、自分に素直なもので。勇者さんもご自分に素直になっていいのですよ」
「……………………。ひとつ、だけ……、いいですか」
「いくらでも」
「……もう少しだけ、そばにいてください」
「はい、喜んで」
お読みいただきありがとうございました。
勇者さんはどんな悪夢を見ているのでしょうね。
魔王「おや、もうすぐ夜明けですね。稀にみる早起き魔王になってしまいました」
勇者「そもそも寝てないじゃないですか」
魔王「では、今日は一日ごろごろのんびりしましょう」
勇者「……そうですね。そう、しましょう」