319.会話 パンフレットの話
本日もこんばんは。
パンフレットとリーフレットで迷いました。どっちでもいいですね。
「魔王城観光地化計画に伴い、パンフレットを作成しました」
「そうですか。お疲れ様です」
「こちらをご覧ください」
「結構です」
「我ながらいい出来だと思うので視界の片隅で見てくださいよう」
「魔王さんが作ったんですか?」
「はい。文章も構図も考えたんですよ。日頃から勇者さんの写真を撮っているおかげでカメラスキルも上がり、こんなにすばらしい魔王城を撮ることができました」
「どここれ」
「魔王城ですってば。快晴の日を狙って撮りました」
「絶対違う」
「ち、違いませんよ。晴れている日はきれいなお城なんです」
「魔王城なら陰鬱な空気をまとわないとだめですよ」
「せっかく観光に来るなら景色はよくないと!」
「一体なにを目指しているんですか」
「世界有数の観光地です。世間の魔王のイメージを払拭し、魔なるものと人間の仲良しワールドを確立する第一歩になる場所を作ろうと思いまして」
「いいこと言っているのはわかるんですけど、言っているひとが違うと思うんです」
「ぼくが言うと問題が?」
「あって然るべきなんですよ、本来」
「心の底から世界の平和とピースと安寧を望んでいるのに?」
「それは勇者の役目です」
「だって勇者さんがやらないから」
「それはすみません」
「勇者さんの使命放棄はいつものことですのでいいとして」
「よくないんですけどね」
「魔王城を過ごしやすい、訪れやすい、住みやすい場所にしたいというぼくの計画案をパンフレットに記載しました。ご一読くださいませ」
「ちゃっかり住みやすいって言ったな」
「移住プランはこちらに」
「別のパンフレットを出すな」
「魔王城の部屋をスイートルームにリフォームし、数名限定で永住できる計画です」
「ホテルなのか観光地なのかはっきりしてください」
「どちらにするか決まっていないのですよ。すべてはきみ次第です」
「私?」
「勇者さんが魔王城に住むと言えば、ぼくはホテル計画を進めます。住まないと言えば観光地化に向けてプランを練ります。まずは景観を整えなくてはいけませんね」
「チラ見してもだめです。魔王城には住みません」
「ま、待ってください。まだぼくの渾身の計画をプレゼンしていません。きみは九十五星ホテル計画を何も知らないまま断るのですか⁉」
「星が多すぎません?」
「パンフレットも読んでいませんし!」
「読んでいますよ。細目で」
「上下逆さまですけど」
「おっと。……まあ、読めなくはありません」
「何かご要望があればパンフレットに記載されたアドレスまでご連絡ください」
「あどれ……? ていうか、魔王さんがここにいるのに」
「遠回しにぼくの連絡先を教えたのですが、いかがでしょうか」
「だからここにいるんだって」
「ちなみに、パンフレットの文章を縦読みするときみへのメッセージになっています」
「私情が挟まっているパンフレットですね」
「おっ、よくわかりましたね! 実はこれ、ランダムでドラゴン試乗券が封入されているんです。当たったひとはもれなくドラゴンに乗って空の旅を味わえますよ」
「どうしよう、ちょっと気になる」
「空は飛びたいけど浮くのはこわいという勇者さんでも安心の低空飛行プランも」
「べ、別にこわいなんて言ってません。びっくりしただけです」
「食事もビュッフェやフルコース、ありとあらゆる世界の料理をご用意いたします」
「誰が作るんですか?」
「基本はぼくですが、お客さんが増えたら料理上手な魔族を雇うかもしれませんね」
「魔王さんが料理人になったら旅はどうするんですか」
「勇者さんが魔王城にいないのならこのプランは使いませんよ。……あれ、なにゆえそっぽを向くのです? わぁん! こっち見てくださいよう!」
「……これ、もうどこかに配ったんですか?」
「いえ、まだです。完成したものはまず勇者さんに見てほしかったので」
「構想案を詰めたパンフレットは配るもんじゃありません。こういうのは完成してからやるもんです。たぶん」
「賛同者が多かったら本格的にやろうと思うのですが」
「却下。没収」
「あぁぁぁあぁぼくの仲良しワールドパンフレットがぁぁぁあぁぁ~」
「魔王城に行く人間は勇者だけでじゅうぶんです」
お読みいただきありがとうございました。
定期的に魔王城の話をして勇者さんの気を引こうとする魔王さん。
魔王「最後にこちらのパンフレットをどうぞ」
勇者「まだあるんですか」
魔王「勇者さんだけの魔王城を改造するプランが掲載されています。ぜひぜひぜひ」
勇者「粘り強いですね、ほんと」




