318.会話 ショートケーキのいちごの話
本日もこんばんは。
ショートケーキのいちご、みなさまはいつ食べますか?
「ショートケーキのいちごをいつ食べるか問題、勇者さんはどう思いますか?」
「え、どうでもいい……。…………。どうでもいいです」
「一応考えてくれた空気は感じ取りました。お優しいですね。答えは一緒ですけど」
「いつ食べるかなんて人の好みでしょう。他人がとやかく言うことではありませんよ」
「まさしくその通りです。ですので、これはただの話のネタというわけです」
「強いて言うなら、私は気分によって決めますね」
「なるほどなるほど。それもいいですね」
「魔王さんはどうなんですか?」
「ぼくは最初に食べる派でした」
「でした?」
「今は最後に食べる派に変えたのです」
「魔王さんがいついちごを食べるかとかまじどうでもいいですけど」
「またまた~。口ではそう言っても心の中ではどうして変えたのか気になっているんでしょう? いいでしょう、その理由を教えて差し上げ――」
「このケーキおいしいですね」
「この町で大人気のケーキ屋さんで買ってきました。売り切れ続出だそうですよ」
「へぇー」
「ケーキをおいしそうに食べる勇者さん……いいですね」
「生クリームの甘さといちごの酸味がちょうどいい感じです。ぺろりといけますね」
「並んで買ったかいがあるというものですよ……うふふふふふ……」
「ショートケーキのいちごのことなのですが」
「あ、まだ記憶に残っていたんですね。もう忘れられたかと思いました」
「ケーキを食べている間だけ覚えていてあげようと思いまして」
「お優しい。短い記憶力ですけど。お優しい」
「そもそも、いちごがひとつしか乗っていないから問題になるんですよ」
「というと?」
「ショートケーキのいちごを十個にしましょう」
「乗りきらないと思います」
「誰が乗せなきゃいけないと言いました? 世はこぼれいちごの時代ですよ」
「ぼくの知らん時代がきた」
「上にも横にも下にも斜めにも真ん中にも空中にもいちごがあれば全部解決です」
「途中で魔法使ってません?」
「ひとつしかないゆえに争いが起きるなら増やせばいいのです。魔王も勇者も」
「それはひとりでじゅうぶんですよ」
「私もいちごがいっぱいある方がうれしいです」
「と言いつつ流れるように食べましたね」
「食べない方がもったいないです」
「ごもっとも。おいしいですか?」
「はい。いちご狩りを思い出します」
「楽しかったですよね。また行きましょう」
「次はいちごなしショートケーキを持参します」
「初めて聞く持ち物」
「狩ったいちごを乗せつつ食べまくります。ふふっ、はっぴーに違いありません」
「勇者さんがめっちゃ楽しそうでかわいいのでなんでもいいや」
「誰だっていちごはいっぱいある方がうれしいと思うのです」
「そうですねぇ。ぼくもそう思いますよ」
「そう言うわりには全然食べる気配がありませんよね。いちご最後派の魔王さん?」
「よくぞ訊いてくださいました。ぼくが最後の最後の最後の最後の最後まで残――」
「食べないならください」
「あ、どうぞ」
「どうぞじゃないですよ。そこは『これから食べるんです』と言うところです」
「ぼくより勇者さんに食べてもらった方がいちごもうれしいと思うのです」
「そうですか。私はそうは思いません」
「ぼくはうれしいです」
「魔王さんの感想は求めていません」
「まあまあまあまあまあまあ、お食べなされ」
「いいんですか? 最後に食べようと残しておいたのでしょう」
「ぼくは『誰が』とは言っていませんから」
「……? いらないならもらいますけど」
「どうぞどうぞ」
「ぱく。もぐもぐ。……なに見てんですか。今さら言っても遅いですよ」
「いえいえ。お気になさらず」
「いちごのショートケーキなのにいちごをあげるなんておかしなひとですね」
「これがぼくの味わい方なのですよ」
「ふうん。よくわかりません」
「そうそう、いちごが足りないと思っていちごのパックも買ってありますよ。残りのケーキにそぉれどどどどどどどど。これだけあればいちご問題は起きません。えへん!」
「ケーキが足りない問題が発生します」
「ぼくとしたことが予備のケーキがありません! ぼ、ぼくの残りをあげ……」
「そこまで食い意地張っていませんよ」
お読みいただきありがとうございました。
魔王さんはケーキを食べる前にいちごを避けておきます。
勇者「ところで、なにゆえケーキを買ってきたのです?」
魔王「ケーキを食べる勇者さんが見たくて」
勇者「ケーキがなくなったので今はいちごしか食べていませんけど」
魔王「では、いちごを食べる勇者さんを見ます」