315.会話 包帯の話
本日もこんばんは。
シリアス風味のSSですので苦手な方はお気をつけくださいませ。
「なっ、なんですかそのケガ⁉ 勇者さん!」
「平気です。魔物と戦っている時に大剣振り回したら自分にも跳ね返ってきただけです」
「平気じゃないです。こっち来てください。はやく治療!」
「だいじょうぶ――」
「だめです。……はあ、きみはケガが絶えませんね」
「そうですね」
「そうですねって……。小さなケガが命に関わることもあると言っているでしょう」
「私がうっかり死にかけたら約束果たしてくださいね」
「……。ひとついいですか」
「お叱りですね。どうぞ」
「誰にやられたんですか」
「誰にって、私のミスですよ。最近どうにも大剣が重くて使いにくいと――」
「大剣でこのケガにはなりません。斬れた傷なら見ればわかります。勇者さんが大剣によるケガをしまくるおかげでわかるようになったんですよ、ぼく」
「…………」
「報復なんてしませんよ。たぶん」
「たぶんじゃ教えられません」
「では、しません。お約束します」
「……。階段ですれ違った人間にうしろから押されたんです。フードを被ってはいるものの、黒髪は長くて出ていますからね」
「階段から落ちた、と?」
「そうですね。すってんころりん」
「打ちどころが悪ければ死にます。許されることではありません」
「構いません。どうでもいいですから」
「きみがよくてもぼくは嫌です。……ぼくの魔力でつくった魔物でもつけて――」
「それこそアウトですよ」
「ぐぬぅ……。ですが、目は見られていないんですよね。どうしてそんなことを……」
「黒色も不吉とされている色ですから。赤色ほどではありませんけどね」
「理不尽過ぎます」
「そういう世界ですよ」
「……ぶっ壊そうかな」
「魔王みたいなこと言いますね」
「勇者さんはどうして平然としているんですか」
「勇者なのであらゆることを許しているのです。えへん」
「きみのそれは諦めというのです」
「その方がラクですので」
「……。大剣、重いならやっぱり変えましょうよ」
「そういって魔王さんが買ってきた剣、一回で壊れましたよね」
「うぐっ……。ぶ、武器は消耗品ですから壊れて当然です」
「神様からの配給品だけあって耐久性はあります。それに」
「それに?」
「この大剣が壊れた時が物語の終わりだと思っていますから」
「物語の終わりはきみが決めるはずです」
「まあ、ひとつの指針みたいなものですよ。他の武器を丁寧に選んで持つほど真面目な勇者ではありませんし。武器も私みたいな人に使われるのは嫌でしょうからね」
「またそういうことを言う。では、武器がきみを選んだら使いますか?」
「そうですね。でもあいにく、武器に自我はありませんから」
「ぼくの魔法でぇぇぇぇ~ぐぬぬぬ~」
「できるんですか?」
「自我を生やす武器がここにない……」
「視野が狭いようですね。眼球の数を増やすといいですよ」
「勇者さんに気持ち悪がられるので却下です」
「想像したらかなりあれですね。はい」
「ほらぁ」
「ケガの治療ももういいですよ。包帯勇者になりました」
「きみに包帯が巻かれているのはもはや日常ですが」
「魔王さんがぐるぐる巻くから」
「きみがケガをするから!」
「わかってます。ごめんなさい」
「ほんとに思ってます? いいですか、勇者さん。いくら勇者といえど正当防衛は成立します。きみに害を与えようとするものには鉄槌を!」
「めんどい」
「もうっ! ぼくがいない時でもきみを守ってくれる人がいれば安心できるのですが」
「懐中時計?」
「彼女の力はよくわかりませんよう。きみの味方であることはたしかですけど」
「あのー、包帯ぐるぐるやめてー、あのー」
「あの魔女っ子も今どこにいるのやら……。実力は認めるのでどうにか……」
「ちょっとー、包帯ぐるぐるぐるぐる……おいこら……」
「やっぱり勇者パーティーを作りましょう!」
「包帯を止めんかい!」
お読みいただきありがとうございました。
この世界では、赤色ほどではありませんが黒色も忌み嫌われる色なのです。
魔王「包帯巻きまくって勇者さんが真っ白に!」
勇者「逆に怪しいですよ」
魔王「大ケガしている人だと思われるのでセーフです」
勇者「アウトです」