314.会話 誤報の話
本日もこんばんは。
なにやら噂が広がっているようです。聞いてみましょう。
「騒がしいと思ったら、魔王が死んだという噂が広がっているらしいですよ」
「ぼく、死んだんですか?」
「そうみたいですね」
「勇者さんコレクションをコンプリートする前に死ぬなんて!」
「そもそもいくつあるかもわからないものをコンプリートっておかしい……じゃなくて、どう考えても誤報なのに信じる人がいるんですね」
「みんな魔王の死を望んでいますからね」
「簡単に言いますね」
「当然のことですから。まあ、いくら望まれたところで死にませんけど」
「勇者が死んだという報せなら真実として流せますが」
「なぁに言ってるんですか。そんなことぼくがさせませんよ」
「ていうか、魔王が死んだら魔物も出なくなるはずでしょう。でも向こうにほら」
「めちゃくちゃいますね。魔物が」
「こっちに走ってきます。だるいな」
「倒してくださいね。ぼくたちが来た道を戻ると村がありますから」
「だる……。そういえば、なぜ魔王が死んだという噂が流れたのでしょうか」
「人間によるいたずらの可能性も考えられますが、おそらく犯人は魔族でしょうね」
「なにゆえ?」
「魔王が死ねば魔なるものは消滅します。ですので、魔王討伐の噂を流し、平和になったと思い込んだ人間を襲う……といった手法を使う者がいるのですよ」
「なんとも質の悪い」
「騙される人を減らすために魔王を演じるぼくの苦労も考えてほしいです」
「演じずとも魔王なんですけどね」
「わざわざそれっぽく変化までするんですよ?」
「ご苦労なことで」
「はあ……。こういう誤報のたびにぼくは魔王にならなきゃいけないのですよ」
「毎日エブリデイ日々魔王なんですけどね」
「村を襲うたびにぼくの胸がみしみしと痛むのです」
「その痛みは病院行った方がいいかもしれません」
「あ、もちろん人間を傷つけてはいませんよ。しっかり確認し、誰もいない物置などを破壊してふははははと高笑いするだけです」
「魔王さんとしてはいつも通りですが、魔王としては何もかもが間違っていますね」
「普段の笑い方と違うのでうまくできないんですよ」
「『ふ』はいいとして、『は』の連続は現実的ではありませんよね」
「『はっはっはっは』なら少しはうまくできるのですが……」
「そんなに気にするところではないと思います。まじで」
「ちなみに、誤報を流した魔族はちゃんと人気のないところで殺しているので安心してくださいね」
「魔王と勇者の兼業みたいですね」
「ひとりたりとも逃したことはありません」
「すてきな笑顔だこと」
「すべて塵にしています。魔族滅ぶべし」
「相変わらず魔王っぽくないですね。いっそ、魔王だと名乗りながら魔族を殺し、友好的アピールをすればいいんじゃないですか?」
「やってみたのですが、それこそ誤報だと思われて広まりませんでした」
「あー……。お姿はどれで?」
「いつものぼくです。聖女っぽいのでいけると思ったのですが……」
「まあ、腐っても魔王ですもんね」
「そもそも魔王だとすら思われず」
「そこからかぁ」
「魔王っぽい見た目にしたらしたで逃げられ」
「コントみたいですね」
「そんなぼくを指さして笑ってきた魔族もぶっ殺……ええと、刻んでおきました」
「言い直しても隠しきれていない殺意」
「情報を見極めないと命に関わりますからね、ちゃんと考えるのですよ」
「情報が錯綜しているようなひとに言われても」
「自分の頭で考え、判断することが重要なのです。そう、新鮮なお魚を仕入れたお店はどこか……とかね」
「真面目な雰囲気で今日の夕飯のことを考えていたんですか」
「鮮度は大切です。勇者さんにはおいしいものを食べてほしいのですから!」
「……別に私は食べられればなんでも」
「だめです。さぁて、今日のご飯は塩焼きか煮つけかお鍋か干物かお刺身か……」
「確かに、夕飯のメニューに頭を悩ませる魔王なんて想像つかないでしょうね」
「魔王は食事しないと思ってるんですかねぇ?」
「食事の必要はないんですよね」
「それはそれ、これはこれです。うーん、どのお魚がいいでしょうか……」
「あ、向こうでタイムセールとやらが始まったそうですよ」
「素晴らしい情報ですね、行きましょう!」
「こんにゃくの」
「誤報ですね、帰りましょう」
お読みいただきありがとうございました。
こんにゃくのタイムセールってなんぞやと思いました。なんぞや。
勇者「魔王が死んだと思う人もどうかと思いますけどね」
魔王「夢は抱くものですよ」
勇者「魔王が言うセリフじゃない」
魔王「勇者さんコレクションコンプリートの夢を!」
勇者「はぁ……」