312.会話 うさぎとかめの話
本日もこんばんは。
今日はイソップ寓話より『うさぎとかめ』についてのお話です。
「おや、また不満そうなお顔をしてどうしました? 魔王に聞かせてくださいな」
「なんだかこども扱いされている気がします」
「あ、不満が濃くなった。これは失礼しました。あんまりかわいかったものですから」
「……。うさぎとかめの話を読んだのです」
「油断大敵ってやつですね。ゆっくりでも着実に歩みを進めることで成果を得られるとも言われています」
「なんでうさぎとかめが勝負するんですか」
「根底に疑問を抱いたのですね」
「うさぎとかめですよ? 勝負するなら同じ動物同士でやらないとおかしいです」
「かめさんでもうさぎさんに勝てるということを言いたかったのでは?」
「うさぎもうさぎです。かめの鈍さをからかっている場合ではありません。捕食される側でしょうに」
「弱肉強食ですね」
「よくわからない勝負があるものですよ。私だったらからかわれても乗りませんね」
「きみは単純にめんどくさいからだと思いますよ」
「走るのだるい」
「ぼくは飛べますから」
「ほら、そういうとこ。能力の異なる者同士なのに能力が公平にならない内容である時点で勝負にならないんですよ。なんでかめはかけっこ勝負を申し出るんだか」
「勝算があったのでしょうね。実際に勝っていますし」
「それともうひとつ」
「はいはい。いくらでも」
「かめっていうほどのろまじゃありませんよね」
「はて。そうですか?」
「割とそそくさ走って行きますよ。もちろんうさぎには負けますけど」
「では、ぼくたちは『かめはのろま』というイメージに囚われているのですね」
「あ、まだあります」
「はいはい。どうぞ」
「うさぎが居眠りしている間にかめが追い越したとありますが、うさぎの睡眠時間ってほんのわずかのはずです。かめが追い越す時間はないと思うのですが」
「よほど疲れていたということで……」
「ここから導き出される答えはひとつです」
「おや、なんですか?」
「かめはうさぎに毒を盛った」
「途端に不穏な話になってきましたね」
「もとより普通に走って勝つつもりはなかったのでしょう。先に山のふもとに辿り着けば勝ち。それなら、自分が速くなるのではなく、うさぎに遅くなってもらえばいいのです」
「眠っている間は足が遅いどころか動いていませんもんね」
「かめは自分の速さで走り、ふもとまで行けばいい。そう、かめは足だけではなく頭も動かしたのですよ……」
「お上手です。たしかに、かけっこ勝負の中に毒を盛るなというルールはありませんね」
「勝負を言い出したのがかめなのもそれが理由です。絶対に勝てると思っているうさぎは疑いの心を持ちにくいでしょうから」
「かわいらしい動物の勝負かと思いきや、頭脳戦だったのですね」
「どんな方法を使えど、勝ちは勝ち。これでズルいと言う人は寝てろって感じです」
「勇者さんは手段を選ばないタイプですか」
「目的があり、それを達成するために行うことはすべて真っ当な手段だと思いますよ」
「意外とまともなこと言いますね」
「ケンカ売ってんですか。いいでしょう。勝負だ表でろ」
「ま、待ってください。ぼくときみでは勝負になりませんよ」
「上等です。自分が勝てると思い込んでいる相手ほど負かしやすいやつはいません」
「なにで勝負するというのですか」
「魔物細切れ選手権とか」
「それならぼくでもがんばれそうです」
「こんにゃく早食い競争とか」
「ぼくの負けです。ごめんなさい」
「ディベート対決でもいいですよ」
「第三者となる観客がいませんし、言葉勝負で勇者さんに勝てる気がしません。きみの口からは果てしないカオスが飛び出してきますから」
「仕方ないですね。かけっこ勝負といきましょう。ゴールはあの山のふもとです」
「えっ、本気で言っています?」
「もちろんです。魔王さんが負けたら今日の夕飯は特大エビフライでお願いしますね」
「え、えぇ、構いませんが……。ほんとにやるんですか?」
「はい。それでは、よーいドン」
「走りますよ――って、何しているんです? 片足をそばの地面に乗っけて……」
「私の勝ちです」
「はぇ?」
「山のふもとは続いています。ぐるりと回ってここもふもとに当たります」
「へ、へりくつ……」
「勝てばいいんですよ、勝てば」
お読みいただきありがとうございました。
へりくつ勝負なら誰にも負けない勇者さん。
勇者「今日は特大エビフライですわぁい」
魔王「へりくつが出てくる速さはうさぎさん以上ですね」
勇者「私は人間ですけど」
魔王「にぶいところもまたよし」