307.会話 あらすじの話その③
本日もこんばんは。
実は当初のあらすじから変更されているのですが、気づいた方はいらっしゃるでしょうか。
昔よりは長くなりましたが、書いてあることは結局同じです。
「ぼくたちの旅は基本的におしゃべりしているだけですが、時折魔族や魔物や人間に出会っているじゃないですか。そういうこともちゃんとお伝えするべきだと思うのですよ」
「ええ、いいですよ。めんどくさい」
「そうしないと、ぼくたちが延々とくだらないおしゃべりしているだけになりますよ!」
「おおむね正しいじゃないですか」
「そうなんですけど」
「あ、負けた」
「いいえ! まだ負けてはいませんよ。それにですね、ぼくは他にもお伝えすべきことがあると思っているのです。それはずばり、性格や特徴です」
「へえ」
「勇者さんのことでもあるんですから、もう少し、もう少し興味を……」
「私の性格って……たぶん書かない方がいい気がします」
「怠惰の極みだらけ癖やる気なしひとりだけ重力が重い惰眠を貪る系勇者のことですか」
「不満があるならそう言えばいいのに」
「ぼくは好きです!」
「あ、ただの特殊なひとだった」
「勇者さんはたしかにのんびりぐーたらですが、人助けや魔物退治もしていますから」
「割合的には一割くらいですよ。やばいですね」
「ぼ、ぼくの性格についてお話しましょう。とはいえ、特に言うことないですね」
「魔王のくせに勇者好き人間好き魔族嫌いのとんでも特殊性癖持ち」
「いやですねぇ、好みはひとそれぞれですよ」
「魔王であることをお忘れのようですね」
「ですが、あらすじにそう書いてあったら『おっ、この魔王は穏やかで優しそうだ』となるでしょう? 世界が平和になっていく予感がします~いえ~い」
「うまい話には裏があるものです」
「ぼくの裏……⁉ ……ちらっ」
「服の裏ではなく。ていうか、隠しているカメラを出せ」
「なっ、んにも隠していませんよそんな超高性能カメラで勇者さんを撮ろうなど!」
「はいはい、いつも通りですね。よこせ」
「まだ一枚も撮っていません!」
「まだ?」
「あうっ」
「魔王の盗撮から逃げる勇者の話に変えますか?」
「ぼくが犯罪者みたいじゃないですかぁ」
「魔王なんだよなぁ」
「もっと、ふんわりほわっと心が穏やかになるあらすじがいいのです」
「会話を聞いた者の理解力が試される! 魔王と勇者の壮絶おふざけおしゃべりをその身に受けろ! 爆発まで残り一分の生き残りをかけた空前絶後の意味不明物語」
「ぼくはすでにその文章が理解できませんよ」
「とりあえず爆発させれば解決すると思うんです」
「春の風物詩じゃないんですから」
「あらすじに『爆発あり』って書かれていたらうれしいでしょう?」
「特殊な訓練を受けたひとだけですよ」
「じゃあ、なんて書いてあればうれしいんですか」
「やっぱり『授業参観』ですかね」
「もう諦めてください」
「ぼくたちの旅は見るものの心を穏やかにするマイナスイオン系物語ですよ?」
「授業参観からマイナスイオンは出ないんですよ」
「そしたらもうあらすじに書くことありませんよ!」
「そこで諦めるのがほんとに謎」
「この世界には理解できない謎だらけです。ぐすん」
「魔王さんほど謎だらけのひともそうそういませんよ」
「こんなに心をさらけ出しているひとはぼくくらいですよう」
「蝶番ぶっ壊す勢いで開けていますもんね」
「あらすじに書いておきます? 蝶番のいらない物語だと」
「この世で初めて聞く文言ですね。ちょっと気になるかもしれません」
「業者が乱入してくるおそれが」
「魔王さんの心に蝶番をつけに? ……んっふふふ、なんですかそれ」
「おもしろかったですか? よし、採用」
「やめてください。この作品に蝶番業者はいりません」
「では、なにがほしいですか?」
「爆弾魔とか」
「物騒……というか、勇者さんはたまに爆弾魔やっていますよね」
「魔王さんは私が持って来た爆弾を解除していますね」
「もう爆弾魔と爆発物処理班の話なんですよ」
「魔王さん不器用だから魔法で破壊していますよね」
「魔法で処理することでギリギリファンタジーの体裁を保っているのですよ」
「ただ会話しているだけでもファンタジー?」
「イエス、ファンタジー」
「目が泳いでますよ」
お読みいただきありがとうございました。
あらすじに書くことが特にないおふたりの物語。
勇者「蝶番に挟まれると痛いんですよねぇ」
魔王「危ないことを言いますね」
勇者「つまり、私たちの旅は痛いということです」
魔王「だめですそんな旅はぼくが爆弾で爆破しますそぉれ!」