306.会話 ファンクラブの話
本日もこんばんは。
ファンクラブの話です。一体誰のでしょうか。
「勇者さんのファンクラブ会員は何人になったでしょうか」
「その一文に対して説明してほしいことが多すぎるのですが」
「なにを説明すればよろしいですか？」
「全部ですよ。私のファンクラブってなんですか。ていうかファンクラブって何」
「その人が好きなひと、応援するひとによって構成される団体のことですよ。応援される本人公認のものと、ファンが自ら運営するものに分類されます」
「私は知らないものですね」
「では、非公認ファンクラブということで。ちなみに、ぼくが会員ナンバー一ですよ」
「知らんうちに変なものを作るな」
「ま、待ってください。着実に会員が増えていると思うのです」
「魔王さん以外に誰がいるんですか」
「同担拒否過激派魔女っ子とか」
「いつの間に会員になっているんですか、アナスタシア……」
「別れる前に訊いたんですよ。そしたら間髪入れずに会員になりました」
「私の知らない物語が……」
「同担拒否なのでぼくに会員ナンバー一を寄越せと言ってきましたね」
「魔王さんに負けず劣らず過激派ですね」
「不満そうな顔をしてナンバー二になりました」
「その言い方だと危ない組織みたいですよ」
「実力は危険組織よりも危険です」
「そうなんですか？ 魔王さんが言うなんてよっぽどなんですね」
「このままでは、勇者さんのファンクラブ会員がみんな危ないひとになります……」
「ご自分のことも危ないひと認定していますが、だいじょうぶですかね」
「三人目が誰になるかでこの世界は決まると言っても過言ではありません」
「過言です。落ち着いてください」
「そもそも、勇者を応援するのは全人類の役目ですよね。つまり、全人類が勇者さんのファンクラブ会員……⁉」
「会員ナンバー一が魔族なのに？ ていうか、私は認めていませんよ」
「勢力を拡大してグッズ展開を企んでいるぼくの楽しみを奪うおつもりですか！」
「ぜーんぶ知らん話なんですよねぇ。今が初めて。すっごい初めましての話」
「欲しくないんですか⁉ 勇者さんのタオルやブレスレットやステッカーや写真！」
「まじでいらん」
「この世界が救われるとしても？」
「そんな世界は終わってしまえ」
「勇者さんの魔王ー！」
「その短さで果てしない矛盾を表すことができるんですね。びっくり」
「出会ってきたひとたちをみんなファンクラブ会員にしましょう」
「巻き込むな巻き込むな。彼らにも自由はあります」
「ですが、勇者さんに好意的なひとはいたでしょう？」
「……少し、は。でも、魔王さんやアナスタシアと一緒にしてはいけませんよ」
「ぼくはあの魔女っ子と一緒くたにされるんですか」
「同類でしょう」
「……いろんな意味で」
「勇者という存在に対してのファンは多いんでしょうけど」
「人間には人気ありますからねぇ。尊敬や憧憬、畏敬の念を抱く人は多いかと」
「ファン？」
「その言葉でまとめるとなんか……あれですね……」
「よくわかりませんが、いろいろあるんですね。めんどうだな、ファンクラブ」
「勇者さんはありのままでいればよいのです。ぼくたちが勝手に応援するだけですから」
「愉快な仲間たちですね」
「ハッ、勇者パーティーに入れますか？」
「えええ、だいじょうぶです。結構です。いらないです」
「勇者さんファンクラブ……別名勇者パーティー。なるほど、これなら！」
「私に何の得があるんですか」
「勇者さんがたくさん愛されるっ」
「結構です。それに、勇者パーティーを作ったらこの会話もできなくなりますよ」
「あー…………、この会話ができるような勇者パーティーにすればいいのです」
「どんなパーティーですか。人間と違う？」
「魔なるものはお断りです。ファンクラブの会員番号は発行いたしません」
「ナンバー一にはそんな権限があるんですか」
「いえ、ぼくが勝手に言っているだけです」
「剥奪」
「やめてぇぇぇぇぇ！ ぼくの心の支えがぁぁぁぁぁぁ……」
「魔王ともあろうひとがそんなものを心の支えにしないでください」
「会員歴十数年のぼくなのにぃぃぃ～……」
「いつから会員なんですか。十数年って……え？」
「勇者さんがこの世に生まれた時から推しています」
「過激派すぎる」
「光栄です」
「褒めてない」
お読みいただきありがとうございました。
勇者さんファンクラブ会員募集中。
勇者「変な貼り紙を作るな」
魔王「信者を増やそうと思いまして」
勇者「せめてファンって言ってくださいよ」
魔王「でもやっぱりぼくが独り占めしたいです！ べりぃ！」
