305.会話 共喰いの話
本日もこんばんは。
物騒なサブタイですがいつも通り平和です。
「あ、魔物が共喰いしていますね。おやおや、無残な姿で。あらあら」
「どうでもよさそうな声で言う魔王さん、レアですね」
「数が減るのはよいですが、共喰いすると強くなってしまうので困るんですよ」
「ただ消えるだけじゃないんですか」
「勇者なのにご存知ない……? アッ、その顔ははい、知らないってことではい」
「いつもすみませんね」
「いえいえ。旅をする中で学んでいく……。これもひとつの形です。勇者ならば知っているはずのことでも知らないことはあります。きっと。たぶん。おそらく。ええ、はい」
「目が泳いでいる」
「こほん、共喰いという現象は魔なるものではよくあることです。弱者が強者に蹂躙されるだけでなく、喰ったものの魔力を得られるメリットがありますよ」
「雑魚でも食べ続ければ超級になれる可能性があるんですか?」
「そうですね。時間はかかるでしょうけど」
「夢がありますね」
「こんなことに夢という言葉を使いたくないです」
「魔王さんの顔……ふふっ」
「いやぁ、ぼくの感情が死んでいく気配がします。魔なるものたちのこと考えたくない」
「魔王なのに」
「勇者さんの知識が増えるならばぼくはやります! というか、勇者ならば知っていて損はありませんし、使う機会もあるでしょうからね。えーと、どこまで話しましたっけ」
「お前の魔力をゲットだぜ、までです」
「そうでした。誰ですか? じゃなくて、魔なるものの中には自分の力を持っているものもいますよね。喰うことでそれも我が物にできる場合があるのですよ」
「つまり、私が魔物を食べたらそいつの力が……?」
「魔物は人間にとって毒です」
「毒の力が……?」
「得る前に勇者さんが大変なことになります」
「残念。つよつよ勇者になれると思ったのですが」
「勇者さんはもう強いですよ。ただ殺したいから、魔力を増やすため、相手の力を得るためなど、共喰いをする理由は様々です。本能的に行うものから、意図的に行うものまで」
「めんどうな文化があるんですね」
「めんどくさすぎて文化という言葉でまとめた勇者さん」
「ん? では、雑魚だからとほっといたら次に会った時に強くなっている可能性が」
「ありますよ。ですから、雑魚でもしっかり倒さなくてはいけません」
「ええええええ~……めん……ど……く……さ……ぁぁぁぁ……」
「すっごい嫌そうな声。ですが、勇者さんも他人事ではありませんよ。魔力や能力を求めるものたちは魔力を持つ人間を狙って襲ってきます。魔法使いや魔女が狙われやすいのはそれが原因ですね」
「後半は知りませんでしたが、魔なるものが私を襲ってくるのは勇者だと認識できないお間抜けさんだからではなく、意図的だということですか」
「きみの場合は、勇者と魔力所持という二点により襲われ度が上がっていますよ」
「襲われ度」
「雑魚だからと油断したら、魔法使いを喰ったことにより固有魔法を得ている場合もあります。警戒を怠ってはいけませんよ」
「対抗して私たちも魔なるものを喰い散らかしましょうよ」
「諦められないんですね。毒です」
「ハッ、いいこと思いつきました。人間は魔なるものよりも弱い。喰われることは百歩譲ってよしとして」
「前提からぼくはよしできないのですが」
「喰われたあとに殺せるように、自分自身を毒に侵しておくのです。どうですか?」
「自信満々に言われても、却下としか」
「そもそも、勇者は魔なるものの天敵です。私を食べたら死ぬんじゃないですか」
「それは別に」
「別になんだ……。勇者って一体……」
「内側から勇者としての力を使えば死ぬでしょうけど。喰われたら無理ですからね」
「内側からぐわーっと? なんか楽しそう」
「思うだけにしてくださいね。死にますからね」
「……!」
「またなにか閃いたようですね」
「魔王さんがすべての魔なるものを共喰いすれば解決」
「いやですよ、あんなやつらを食べるなんて。不味いですし」
「魔王さん、料理お上手でしょう」
「あれらに使われる調味料や道具がかわいそうです」
「めっちゃ嫌そうに言いますね」
「それらで勇者さんのご飯を作るんですよ⁉ はぁぁぁぁぁ、一度すべて捨てないと」
「過激派」
「考えただけで手が震えます。まったく、共喰いする魔物がいたせいで……」
「魔王さんも魔なるものですよね。勇者を喰えば力を得られるんですか?」
「………………………………………………」
「なにか言えや」
お読みいただきありがとうございました。
魔物は特に共喰いが激しいです。きっとロマンを夢見ているのでしょう。
勇者「魔物っておいしいんですかね」
魔王「絶対に食べちゃだめですよ」
勇者「スライムはところてんっぽい」
魔王「どちらかというとこんにゃくだと思――ヴッ、こんにゃくって言っちゃった……」
勇者「自爆してる」