303.会話 滝の話
本日もこんばんは。
この間、滝を見に行ったら通行止めになっていました。
「何の音かと思ったら、強めの打たせ湯がありますよ」
「勇者さんは一度眼科に行くべきだと思います」
「なに言ってんですか。あれこそ打たせ湯の原形です。私の肩こりも解消されますよ」
「大剣を背負わなければいいのでは」
「魔王さんが持ってくれないから私が肩こりに悩むことになっているんですよ」
「そ、その剣はぼくに効くんですよ……」
「私もよく斬れます」
「捨てましょう、そんな剣」
「たいして手入れもしていませんから、たまには洗ってあげましょう。そぉれ」
「ダイナミック洗浄」
「これでよし」
「水浸しのまま鞘に収めたら錆びちゃいますよ」
「いつも魔なるものの血で濡れたまま収めていることには何も言わないのに」
「あれはいいかなって……」
「よくないんですけどね」
「なんだかんだで手入れはしていますからね、きみ。テキトーですけど」
「愛着でも湧けば丁寧に手入れしますよ。湧けば」
「それは湧かない人の言い方ですよ」
「こんなところからも水が湧いていますよ。冷たいです」
「小さな滝みたいですね。かわいらしいです」
「この威力があれば雑魚魔物を粉砕できそうです」
「水は強いですからね。水魔法の中には銃弾にして放つものもあるそうですよ」
「水鉄砲?」
「がちなやつですね」
「楽しそうですね。私としては、滝を上から流し続けて水責めすることを提案します」
「魔力が多くないとできない技ですね。強そうですが周囲が大変なことになりそうです」
「新たな湖の誕生です。生命の神秘」
「生命は海だったような」
「作った湖に敵を沈めることもできます」
「なかなかえげつない技です。呼吸が必要な相手には効果てきめんですね」
「息が苦しいのはいやだなぁ……。私、泳げないし」
「そう言いながら滝に向かっているのはなぜです」
「肩こり解消」
「勇者さんが潰れる気がします」
「音がすごいですよね。けたたましいずどどどどど」
「肩こり解消どころか肩が消えてしまいますよ」
「ダイエットですね」
「勇者さんはダイエットの必要ありません! むしろもっとお食べ!」
「食べるといえば、滝ってネギトロ丼を作るのに向いていそうですよね」
「細かくする前にマグロが吹き飛ぶと思います」
「帰るべき場所に帰ったということで」
「滝にマグロはいないかと」
「宿のシャワーもこのくらいの威力だったら秒で終わると思いませんか」
「頭皮へのダメージが心配ですね」
「たまに、めちゃくちゃ弱いシャワーがあってじれったいのです」
「逆に、宿泊客の頭皮に怨みであるんですかって感じのシャワーもありますよね」
「初見殺しですよ。痛くて使えませんでした」
「あれで痛いなら滝は痛いどころでは済みません。戻ってきてください」
「頭皮ではなく肩にやるので」
「同じです。戻ってきてください」
「だって肩こり……」
「ぼくがマッサージしてあげますから。許可をいただけるのならば、ですが」
「背後から不穏な気配がするので嫌なんですよね」
「優しさと慈しみをもってもみます」
「セリフはセーフ。表情はアウト」
「ぐぬっ……。あっ、滝つぼは深い可能性がありますから、ほんとに危ないですよ」
「滝つぼは深い……。ハッ、泉の女神がこの下に」
「いません。大剣を落としたら、潜って取るのはぼくなのでおやめください」
「もうちょい軽い大剣にしてほしくて」
「大剣の時点で重いんですよ。軽い武器がいいなら考えて――って、あの?」
「魚……いないかな」
「乗り出したら危険です。落ちたらどうするんですか」
「あああー……。回収される私……」
「どうして魚を求めているのです。鮮魚店に行きましょうよ」
「魚には『たたき』という料理があると聞いたので」
「滝でたたこうとしたんですね。発想はいいとして、たたきが何かご存知ですか」
「叩けばいいんですよね?」
「細切れにする場合そうでも、カツオのたたきは違います。あれは切り身を炙るんです」
「滝の存在意義はどうなるんですか」
「あれ、肩こり解消の話でしたよね?」
お読みいただきありがとうございました。
滝を眺めていると打たせ湯にしか見えません。
勇者「水は飲み放題ですね」
魔王「鞄に入っているお水を飲んでください」
勇者「だってあんなに流れているのに」
魔王「喉を殺られますよ」