293.会話 木目の話
本日もこんばんは。
一度顔だと思うともうだめです。そんな木目のお話。
「今日は一段とぐーたらですねぇ。天井を見上げたまま固まっています」
「魔王さん……顔が……」
「ぼくの顔? 今日もかわいいですよ。勇者さんも!」
「やかましい……そうじゃない……。天井に顔があるんですよ……」
「天井に誰かいるんじゃないですか?」
「…………」
「やだぁ冗談ですよそんなこわい顔しないでください大剣しまって向けないで痛い」
「ふざけたこと言うからです」
「ごめんなさい、つい。あれはおばけでも幽霊でも心霊でも生霊でもありません。百パーセントただの木目です。以前、雲が天丼に見える話をしたのを覚えていますか?」
「魔王さんの目が節穴だとわかった話ですね」
「勇者さんが見ているものが特殊すぎるだけです。あの時、実際はないのにそう見えてしまうことをパレイドリア現象といいましたね。木目も同様です」
「顔に見えるだけってことですか」
「ですので、そんなにこわがらなくていいですよ~」
「こわがっていません」
「ずっと大剣に手を置いているじゃないですか」
「いつ魔物が乱入してきても倒せるようにです」
「たまに木目に向かって突き上げようとしているのは」
「そう見えているだけです。魔王さんオンリーパレイドリア現象です」
「ばっちり見えましたよ」
「じゃあ幻覚ですよ」
「テキトーですねぇ。ですが、脳の錯覚とはおもしろいもので、点が三つあるだけで人の顔に見えるそうです。おかげで天井に何人もいるみたいですよね」
「そういうことをだな……」
「あの人は笑っているみたいです。あっちは悲しんでいる?」
「やめんかい」
「向こうは勇者さんを眺めてかわいいなぁと思っているに違いありません」
「見るな」
「ぼくも参加して上から勇者さんを眺めてもいいですか?」
「やだこのひとこわい」
「変顔選手権木目バージョンでも」
「うわぁ、おもしろくなさそう」
「そういえば、木目に関係なく突然人間の顔が浮かび上がる事例もあるそうですよ」
「げっ、なんですかそれ。おばけ……」
「それがですね、誰も知らない顔なんですって。知人でもない。有名人でもない」
「ばちばちの心霊現象じゃないですか」
「しかも、だんだん家中に出現する」
「……うわ」
「気がつくとすぐ隣にも」
「や、やめてください。なんですかもう。こわ……こわくないですけど、不気味なので」
「……えへへ、ごめんなさい。勇者さんの反応がかわいらしいのでつい」
「このやろ……」
「まあまあ、実際に人がいれば気配がするでしょうし、魔族なら魔の気配がします」
「幽霊は気配ないと思います」
「どうでしょうねぇ。気になるなら捕まえに行きます?」
「いいいいいだいじょうぶです結構ですいらないですあっちいけです」
「……かわいい。木目を動物の形にすればよいのです。猫ちゃん木目、うさぎさん木目」
「一気に雰囲気が変わりましたね」
「宿の人気も爆上がりですよ」
「それはどうでもいいですけど」
「事故物件でも入居者殺到」
「それもどうでもいいです」
「癒しの空間として世界的に有名な観光スポットに」
「木目の動物より本物の動物と触れ合いたいです」
「つまり、本物のぼくとくっつきたいと」
「誘導尋問にしては雑ですね」
「木目に怯えている勇者さんならいけるかなぁと」
「怯えていない。こわがってない」
「布団かぶっちゃった」
「木目などなかった。いいですね?」
「では、ぼくの顔を眺めてください」
「ではってなんですか、ではって。布団に入って来るな潜るな出ろ」
「だって、こうしないと勇者さんのお顔が見られないじゃないですか」
「見なくていいです」
「いつか勇者さん木目を作る時のために焼き付けなくてはいけないのです」
「それは木目じゃなくてデスマスクなんですよ」
「隣に魔王木目もありますよ。超絶スマイルの」
「心霊現象だ……」
「失敬な」
お読みいただきありがとうございました。
勇者さんは顔っぽい木目の上にポスターとか貼るタイプです。
勇者「古めの宿ってどうして木目が多いのでしょう……」
魔王「古いといろんな歴史もありそうですよね」
勇者「いろんな歴史……」
魔王「人死にとか――冗談ですってば冗談ごめんなさ~い!」