291.会話 利き手の話
本日もこんばんは。
今日はおふたりの利き手についてのお話です。勇者さんはどちらでしょう?
「勇者さんってご飯の時は右手でスプーンやフォークを持ちますが、お勉強の時は左手でペンを持つのですね」
「……え。あ、左手で持ってました? ……ほんとだ。気づかなかった」
「もしかして両利きですか? すごいですねぇ」
「両利きというか、右で持つように命令されたからそうしていただけです。ただ、ペンは左の方が書きやすいと思って。右で持つようにしていたはずだったのですが、ふと気がつくとだめですね。左で持ってしまう」
「持ちやすい方、書きやすい方を使えばいいんですよ。直すことありません」
「左はだめだと言われたのですが」
「そんなの忘れてください忘却忘却~。人には右利き左利き両利きなどがあり、実に様々です。左の方が使いやすいのならば、無理に直す必要はなし。いいですか?」
「魔王さんは右……利きなんですね」
「ぼくは人間の多数派に合わせているだけですよ。右利きの方が多いんです」
「へえ。知りませんでした」
「ところで勇者さんご存じでした? 左利きの人は天才といわれているんですよ」
「なんですかそれ」
「勇者さんがなんでも器用にこなしてしまうのも左利きが関係しているのかも⁉」
「そんなわけ」
「……というのは一般論で、実は右利きの方が多い世界では左利きは少々不便を強いられることも多いのだそうです。なにか気になることがあればおっしゃってくださいね」
「不便なことですか。あまり気にしたことはないですね」
「たとえば、ご飯の時に隣のひとと肘が当たるとか」
「食事は右で持つようにしていますよ」
「はさみが使いにくいとか」
「そもそもはさみをあまり使いませんね」
「習字が苦手とか」
「シュウジってなんですか」
「……そんなに不便はなさそうですね。なんでもないです」
「どちらの手も普通に使えるので問題ありません。気にしなくて結構ですよ」
「それはそれですごいですね。けろっと言うところがかっこいいです~」
「魔王さんは利き手というか、手を生やせるので論外ですよね」
「手を生やしたことはありませんよ?」
「変化できるでしょう。うぞうぞ生やしてくださいよ」
「いやですよ。勇者さんに『近寄らないでください』と言われる未来しか見えません」
「近寄らないでほしいのはいつもです」
「ならよかったです。よくないです。悲しいです。泣きそう」
「情緒不安定ですねぇ。悲しむ頭を失くせばいいんですよ」
「そうですね――って何言ってんですか」
「ペンを持つ時は右手で持つことを念頭に置いているのですが」
「ぼくは置く頭を取れと言われた直後なのですがそれについてはスルーですか」
「気がつくと左で持ってしまうんですよね」
「いいと思いますよ。書きやすい方で書けばいいのですから」
「どちらの方が目潰ししやすいのか悩んでいて……」
「そうですねぇ……はい?」
「書きながら自然な動作でペンをスライドさせ、隣にいる魔王さんの目にアタックを」
「どうしてすぐ物騒になるんでしょうね」
「掛け声は『おっと、手が滑った』」
「強者が力を使う時のセリフじゃないですか」
「両利きならばどちらにいても等しく攻撃できる利点がありますね」
「等しく学んでほしいところです」
「両手で書きながらフェイントもできますよ。これは大きな利点です」
「書きやすいとかの話じゃなくなっていますが」
「日頃から鍛錬をするべきですね。ペン目潰しの」
「そういう時は剣の鍛錬と言うべきですよ。うそでも」
「ペンは剣より強しって言うじゃないですか」
「勇者さんの場合はペンも剣みたいなものなんですよ」
「ペン型ナイフの話をしています? 非常に小型のナイフを一本持っておこうかと考えていたところなんですよ。いざという時に便利ですから」
「落ち着いた雰囲気の中、文章を紡いでいた勇者さんがくるりとペンを回してナイフに変え、敵を優雅に倒していくシーンをぜひ映画で観たいですね」
「妄想がお早いことで」
「両利きならば片手にペン、もう片手に銃というのも……アリですね!」
「違う世界を見ているようなので、今のうちにその目を」
「おっとっとーい。ぼくのきれいな青い目を攻撃するとは、なかなかやりますね」
「魔族らしく赤目になりやがれと思いまして」
「またまた~。ぼくの青色が大好きなくせに~」
「…………」
「無言で攻撃するのやめてもらっていいですか」
「…………」
「せめて片手にしてください! 両手やめて!」
お読みいただきありがとうございました。
勇者さんは左の方が使いやすい両利きです。
魔王「大剣は両手で持つので利き手関係ないですね!」
勇者「多少は違いますけど……やっぱり大剣って不便ですね」
魔王「重いからですか?」
勇者「片腕失くしたら持てなくなるからです」