290.会話 『世界を敵に回しても』の話
本日もこんばんは。
あの有名なセリフについてのおしゃべりです。
「また表現し難い表情をしていらっしゃいますね。なにがあったんですか?」
「映画を観ていると『世界を敵に回しても君を守る』という歯の浮くようなセリフを頻繁に耳にするのですが、彼らは本気で言っているのでしょうか?」
「それくらい好きって意味だと思いますよ」
「実際に世界が敵に回ったら、この男は女を捨てると思います」
「ドストレートに言いますね」
「だって生きていけませんよ。自給自足には限界がありますし、世界中の敵意を感じながら生きるのは厳しいはずです。最初はよくてもいつか終わりがきます」
「現実的ではないかもしれませんが、それくらいの気持ちがなくては愛する人を守れないってことですよ。世界は優しくありませんから」
「よくわかりませんね」
「ふふん。えへへ。どやぁ。ふっふーん。ふへへ」
「なんですか気持ち悪いです」
「ぼくの存在をアピールしたのですが、だめでしたか?」
「アピールの意図がわからなくて」
「ぼくは世界を敵に回しても勇者さんを守りますよ!」
「魔王さんは最初から世界の敵ですよ」
「そうでした」
「たまに忘れそうになりますけどね。魔王さんは魔王なんです」
「ですが、実際に言われてみてどう思いましたか? やっぱりキュンとします?」
「魔王さんが言ってもいつも通りって感じでなにも」
「日頃の発言が裏目に出ましたね」
「このセリフは今が初めてですが、魔王さんが魔王なので特に思うことはありません。そうだろうなって感じです」
「魔王は世界の敵ですからねぇ。ぼくは仲良くしたいのですが」
「こればっかりは仕方ないですね」
「ですが、すでに世界の敵であるぼくはなんでもできるということです。人間と仲良くするのもやってよーしなのですよ。えっへへへ~」
「世界の敵レベルカンストしていますからね。今さら何しても変わりません」
「ロマンチックな状況であのセリフを言えば、勇者さんと言えどキュンとするはずです。たとえば、魔王城で対峙した時に手を差し出して……とか」
「たとえなくても実際にありましたよ、それ」
「なんであの時言わなかったのでしょう! ぼくのばか!」
「もし言われたら『は?』って返したと思います」
「出会いは最悪でも、その後から仲を深める展開は王道です。威圧に負けず、ぼくはオールウェイズロマンチック路線で突き進みますよ」
「道を外れてほしい。あ、変な意味ではなく。ん? 魔王なら変な意味の方がいいのか」
「ぼくに外道になれとおっしゃいますか!」
「魔王なんだよなぁ」
「世界を敵に回してもぼくは真っ直ぐ勇者さんを愛しますよ」
「セリフだけ聞くと勇者でしかない。……いや、勇者が言うセリフでもないですけど」
「ロマンチック路線の勇者さんなら言うでしょうね」
「会いたくないタイプの勇者だ」
「ハートのステッキとか」
「あー、持っていそうですね。それっぽいです」
「持っていました」
「持ってたんだ……」
「爆破エフェクトがハートの形をしていてかわいかったですよ」
「出る作品を間違えていると教えてあげてください」
「『世界を敵に回しても魔王を倒す!』が決め台詞でした」
「魔王を倒したら世界に褒められると思うんですけど」
「世界ごと破壊したら人間たちも怒って敵になるんじゃないですか?」
「世界が破壊されたら人間は生きていないんだよなぁ」
「勇者さんもいかがですか?」
「魔王さんと旅をしている時点で私は五割くらい世界の敵みたいなものですよ」
「いえ、ハートのステッキ」
「嫌すぎる」
「お望みならば効果音もお付けしますよ。しゃら~んってやつ」
「お望まないです」
「それを振るだけで世界の味方になれますよ」
「だったら私は世界の敵の方がいいです」
「魔王になっちゃうじゃないですかぁ!」
「魔王さんよりはそれっぽいのでいけると思います」
「どんな勇者さんでもぼくはついていきますよ……。そう、世界を敵に回しても」
「それが言いたいだけですよね」
「ぼくの口癖にしようかと思います」
「日常的に言われたら特別感がなくなりますよ」
「それすら麻痺するくらい言い続けます」
「世界を敵に回しても……ね。こんにゃくも敵になりますが」
「ちょっと考えます」
お読みいただきありがとうございました。
魔王さんはこういうセリフが好きだったりします。
魔王「もちろん、こんにゃくにも負けません!」
勇者「視線がずれていますよ」
魔王「負けません!」
勇者「そっちに私はいない」