29.会話 技名の話
本日もこんばんは。
技名の話です。
少年漫画的な内容にしたかったのですが、なりませんでした。無念。
「あーどっこいしょ。はい、いっちょあがりです」
「勇者さんって、いつも気だるそうに戦うわりにとっても強いですよね。もっとキリっと決めたら勇者っぽく見られるのではないでしょうか」
「キリっとですか。めんどくさそう」
「そう言わずに、例えば、技名を叫ぶとか」
「戦っている時に叫ぶと、それだけエネルギーを消費して不利になるのでは?」
「自分を鼓舞し、士気を高め、アドレナリンを出すんだと思いますよ」
「鼓舞したところでできないものはできませんし」
「現実主義ですね」
「高める士気も持ち合わせていませんし」
「周囲の士気を下げるタイプですよね」
「アドレナリンも出ません」
「他の人より分泌量が少なそうですもんね」
「表情ひとつ変えずに黙って淡々と無双した方がかっこいい気がします」
「そういうタイプもいますね。勇者さんはそっち向きかもしれません」
「魔王さんはこれまで何人もの勇者と戦ってきたんですよね。技名を叫ぶタイプの勇者はいましたか?」
「半々ですかね。昔は男性が多かったですが、最近じゃ女性も派手に叫びますよ」
「元気ですね。たとえば、どのような技名ですか」
「かめはめ――」
「おっと、おっとっと。ストップ、魔王さん。次」
「同じ言葉を二回繰り返す人もいましたよ。たしか、ゴムゴ――」
「おーっと、危ない、危ないですよ。次」
「忍者っぽい人もいましたね。なんて言ってたかな、火遁――」
「はい、おっけーです。もうじゅうぶんです。それらはたぶん男性陣ですよね。女性陣はどんな感じでしたか」
「そうですねぇ……。銃弾撃ちまくってくる人は、ティロ――」
「こっちも危ないですね。次」
「エクソシストだと名乗る人もいましたよ。黒いブーツで蹴ってきました」
「技名が伏せられたのでよしとしましょう」
「魔王城に入るやいなや、極大魔法! と叫んで何やらとんでもないことをしてきた人もいましたね。片付けが大変でした」
「愉快な勇者たちですね。反対に、無言の勇者もいましたか」
「トラップに見向きもしないで魔王城に押し入り、ぼくを見ると問答無用で斬り殺しに来た人がいましたよ。一切言葉を発さず、ぼくを倒すことだけ考えているようでした」
「かなり恐怖ですね。でもさっきの方たちと比べると強そうです」
「ぼくも久々の強敵かと思ったんですけどね。真っ直ぐにしか動けないタイプらしく、横からえいっとやったら勝てました」
「勇者、よわ。なんですか直進のみって。イノシシですかマグロですかバカですか」
「結局、技名を叫ぼうが黙ろうが、強い人は強く、弱い人は弱いんでしょうね」
「神様はいい加減なところがありますからね」
「もしかして、補正あるんでしょうか。勇者さんが強いのって、見た目が好みだから他の人より強めの補正があるとか」
「うれしくないですね」
「補正ありなら、技名を叫んでも強さは衰えませんよ。どうです、一度?」
「見計らったように前方から魔物が突進してくるんですが、魔王さんが呼んだんじゃないですよね?」
「そんなこざかしいことはしませんよ。では、張り切ってどうぞ~」
「えー、めんどくさいですね。技名って言ったって、すぐ思いつきませんし……」
「流用でもいいですよ」
「コンプライアンス的にアウトなんですよ。どうしようかな……。何も出てこない」
「勇者さん、はやくー!」
「やかましいですね。えーっと、うーん、一ミリも脳が働かない。ええい、何か言えばいいんでしょう、言えば」
「記念すべき勇者さんの技名です! たのしみです!」
「スーパーハイパーエクストリームなんかめっちゃすごい威力のアレーー‼」
「えー……?」
「なんですか、そのリアクション。魔物は一撃ですよ」
「強いんですけど、思ってたのと違うので……」
「結果がすべてですよ」
「そうですけど! そうですけどー! あっ、勇者さん、魔物がもう一体いますよ」
「魔王さんが呼んだんじゃないですよね?」
「…………」
「おら、こっち向け」
「勇者さん、はやく! 来ますよ!」
「仕方ないですね。とっておきの技名を披露してやります。鼓膜を破って聞け」
「がんばれ~! 勇者さん~!」
「秘儀……“お前の家族と銀行口座番号は預かった”アターック‼」
「な、なんという非道な⁉ 鬼! 悪魔! 魔王! あ、魔王はぼくか」
お読みいただきありがとうございました。
技名を考える方たちはすごいです。
勇者「そもそもこれ、技名を出すような話じゃないですからね」
魔王「技名を出すような話にすればいいのでは?」
勇者「それにはもっと重厚なストーリーや世界観が……。はあ、考えただけでめんどくさい」
魔王「しゃべるのをめんどくさがる人ですもんね、きみ」




