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285.会話 おまじないの話

本日もこんばんは。

魔力がなくても使える魔法のことば、おまじないの話です。

「勇者さん、ぼくがそばにいるのに、どうしてケガが絶えないのでしょうか……」

「魔王さんに隠れてケガをしているからですね」

「なぜ……。ぼくはきみに傷ひとつついてほしくないのにぃぃぃ……」

「勇者業をしていればケガくらいします」

「しなくていいですぅぅぅぅぅ……」

「ぼーっとしているといつの間にかケガしているんですよね。めんどくさい」

「ぼーっとしないでください。ほら、手を出して。治癒魔法……消毒ガーゼ包帯と」

「毎回毎回そんなに丁寧にやらなくてもいいんですよ」

「だめです。小さな傷でも悪化する危険性があるんです。隠さないでください」

「……隠しているわけでは、ない、です」

「そうだといいんですけどね。あっ! こっちもケガしてる! まったくもー、仕方のない子ですねぇ。こほん、痛いの痛いの飛んでいけー。痛いの痛いの飛んでいけー」

「……なんですか? 魔法……じゃないですよね」

「魔力を持たない人間が使える魔法です。魔族のぼくでも効果があるといいのですが」

「痛いの痛いの飛んでいけ、ですか。言葉だけで痛みが消えるわけありませんよ」

「飛んでいけばいいなと願いを込めているのです。ですから、どうかなるべく、ケガはしないようにしてくださいね。ケガをしたら隠さないで。痛みを抱えないでください」

「魔王さんが痛いわけじゃないのに、どうしてそんなに辛そうな顔をするのですか」

「きみが痛いも辛いも苦しいも見ないふりをするから、ぼくがやるんです」

「なんですかそ――」

「いたたたたたたたっ!」

「な、なに……」

「勇者さんから飛んでいった『痛い』がぼくのところに飛んできたんですぅ~……」

「そんなわけ……」

「いたたたたたたたっ!」

「ちょっと、冗談ですよね? 顔に演技って書いてありますよ。ふふっ、変な顔」

「あ、笑いましたね? どうですか、『痛い』はなくなりましたか?」

「……あれ。え、嘘だぁ」

「ふっふーん、これがおまじないの力です。すごいでしょう?」

「すごいのは魔王さんの変顔ですよ」

「おまじないの効果です! 魔力のいらない魔法ですよ。勇者さんにも使えます」

「魔王さんは不老不死ですし、ケガだってすぐ治るじゃないですか」

「勇者さんがおまじないをかけてくれると言うのなら、ぼくは今から大ケガしてきます」

「顔が本気なのが一番こわい」

「だってぇ~……、勇者さんに痛いの痛いの飛んでいけーって言われたら、ぼくはうれしくて天まで飛んでいきますよ」

「死んでるじゃないですか」

「すぐ戻って来ます!」

「ええ、こわい。魔王さんの独特な感性がこわい」

「勇者さんに言われたくはないですね。独特感性コンテストがあれば大賞になれますよ」

「また変なのを開催している。そんな暇があるなら手を離してください。治りました」

「痛み飛ばし大会を開きますか? 勇者さんの痛みはすべてぼくに飛ばしてくださいね」

「真顔で言うのやめてもらっていいですか」

「ぼくはいつだって本気ですよ」

「おまじないの痛がり方は冗談でしたけどね」

「いえ、変顔の方」

「自覚あるんだ。……あの、いつまで手を当てているんです。もう平気ですよ」

「手当てと言って、ケガをしたところに手を当てて痛みを緩和させるんですよ」

「当てるだけですか? それじゃ治りませんよ」

「古来より、人間は手当てをしてきました。祈り、願い、慈しみ。そういった想いによって痛みや苦しみを軽減させる……らしいです。どうですか?」

「魔王さんは人間じゃないでしょうに」

「物は試しです。それに、勇者さんへの想いは本物ですよ」

「……触れられるのは好きではありません」

「おっと! 失礼しました。処置はできたのでおしまいにしましょう。痛かったら言ってください。その時は痛み止めやお薬などを考えます」

「平気です。魔王さんが痛みを飛ばしてしまったので」

「おまじないが効いたってことしょうか!」

「人間じゃなくても使えましたね。それとも、実は人間だったりします?」

「自分のことを魔王だと思い込んでいる人間ってことですか。ただのアブナイ人……」

「アブナイひとにアブナイおまじないをかけられてアブナイひとになった魔王さん?」

「それはおまじないじゃなくて催眠だと思いますよ」

「魔王さんはその見た目を使って人間を騙せるので実質詐欺師ですもんね」

「どんどんアブナイ方にいく……。優しいおまじないはどこです」

「魔王さんがどこかに飛ばしたじゃないですか」

「それは『痛いの』です。しかも、飛んできたのはぼくのところですよ」

「では、巡り巡ってすべては魔王さんが元凶ということで」

「耳が痛い……」

「痛いの痛いの飛んでいけー」

「いたたたた耳! 耳引っ張らないでください! 飛んでいかない千切れる!」

お読みいただきありがとうございました。

勇者さんはおまじないを覚えました。


勇者「天に昇らないんですか?」

魔王「一種の表現ですよう」

勇者「えー、なんだ」

魔王「残念そうな顔をしない!」

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