283.会話 トランプの話
本日もこんばんは。
おふたりがトランプで遊ぶようです。現場を覗いてみましょう。
「勇者さん、トランプをしませんか? 遊び方はぼくがご説明いたしますから」
「トランプって、この紙のことですか。数字やマークがたくさん……」
「最初に遊ぶとしたら、定番のババ抜きがいいかと思います。ルールも簡単で――って、あの? なにゆえぼくのアホ毛を引っ張っていてててて勇者さぁぁぁぁん~」
「ババ抜きって言うから」
「イミチガウ……。たしかにぼくはロリババ――って、なに言わせるんですか!」
「今回は魔王さんがご自分で言っているだけです」
「うぐぐ……。では、大富豪にしましょう」
「あてつけのような名前のゲームですね。超貧困で悪かったな」
「わぁんそんなこと言わないでくださいお小遣いあげますからぁぁぁぁ~」
「金貨しまってください」
「ううう……。では、神経衰弱にしましょうアッ変な意味ではなくてこういう名前のゲームでして決して他意はないのでルールをご説明いたしますねうんたらかんたら~です!」
「なるほど。せっかくですしやってみましょう」
「よしきたぁ。お手本として、ぼくからやってみますね。これとこれ! あ、残念です」
「次は私ですね。これと……これ。む、違う」
「いざ。これと、これ! ありゃぁ~」
「……ふむ。だいたいわかりました。これとこれ」
「おっ、正解です! ペアができたらもう一回チャレンジできますよ」
「そうらしいですね。では、これとこれ」
「えっ、すごいですね! よくおわかりで」
「次はこれとこれ。そんでこっちとこれ。続いてこことこれ。またまたこっちとここ」
「ええっ、なんでそんなにペアができるんですか? まさか透視能力ですか」
「んなわけ。さっき一度めくった時に感覚を掴んだので、次にめくるまでに裏返して混ぜた時の映像を脳内で再生したんです」
「なに言ってるのかわからないです」
「数字とマーク、色と場所を連動して覚えれば簡単ですから」
「ほんとになに言ってるのかわからないです」
「覚えたもん勝ちのゲームなら余裕ですよ。えへん。この勝負、いただきますね」
「まだ枚数ありますけど、ぜんぶかっさらっていく気ですか」
「その通りです。ペア、ペア、ペア、ペア、ペア。ふっふーん」
「もはや鮮やかですね……。ぼく、もう負けでいいので見ていたいです」
「ひとりでやってもおもしろくないですよ」
「今のはひとりでやっているようなものだと思いますよ?」
「……手を抜きましょうか」
「いえいえ、とんでもないです。勇者さんのすぺしゃる具合が見られて楽しかったです」
「以前、魔王さんがトランプでタワーを作っているのを見たことがあるのですが」
「トランプタワーですね。まったくできませんでした!」
「幻覚かと思いましたが、現実だったんですね。あれ、ちょっとやってみたいです」
「ぜひぜひ。ぼくにトランプタワーを見せてください。絵でしか見たことないんです」
「作れたらいいことありますか?」
「ぼくの手作りトランプを贈呈いたします」
「いらない……」
「がちでいらなさそうな顔をしているので、景品変更! シュークリームにしましょう」
「よしきた。任せてください。すぺしゃるなトランプタワーを作りますよ」
「ぼく、黙っていた方がいいですか?」
「しゃべらなくても顔がやかましいので結構です」
「いいのか悪いのか……。では、元気よく応援していますね!」
「ただ紙を立てているだけなのに、気にすることが多くておもしろいですね」
「おもしろいですか? よかったですよかったです」
「難しいですが、できました。どうですか?」
「難しいと思っていたことが驚きなくらい普通に完成させましたね。すごいです」
「シュークリームください」
「これ何段トランプタワーなんですか……? あ、すみません。どうぞ」
「美味……。トランプで勝ち取ったシュークリームは格別です」
「勇者さんの器用さは冗談みたいですよ。ぼくはいつも驚かされます」
「なんかできた」
「天才のそれ。ぼくにはもうこれを渡すことしかできません……」
「ハートのクイーン? これがどうかしましたか」
「魔王からの愛ってことです。受け取ってくだ――痛ぁぁあぁ~」
「油断も隙も無い」
「勇者さんの好きなマークはどれですか? やっぱりハートですよね。うんうん」
「なんでスペードのカードを回収しているんですか」
「えっ、ええーっと、別に深い意味はありませんよ~」
「スペードにも意味があるんですか」
「あるので回収しているのです」
「へえ。教えてくださいよ」
「だめです。勇者さんはジョーカーでも持っていてください」
「意味は?」
「勇者さんはぼくにとっての切り札ってことです」
お読みいただきありがとうございました。
勇者さんは魔王さんがトランプを裏返す時にすべてのカードを暗記していました。
魔王「ババ抜きも異常に強いですね」
勇者「引かれたカードと位置を覚えれば楽勝です」
魔王「うしろでシャッフルすればいいのです! ……はい、どうぞ!」
勇者「……魔王さんの顔でぜんぶわかるんだよなぁ」