282.会話 魔女の帽子の話
本日もこんばんは。
みんな大好き魔女さんが被るあの帽子についてのお話です。
「魔女が被る帽子ってなんであれなんでしょうね。とんがってるやつ」
「魔女といえばあの帽子のイメージですよね。ハロウィンの時も魔女の仮装セットには必ず入っていましたよ。魔王や勇者と同じようにイメージが固定されているのでしょう」
「これは決して魔女の方々をけなしているわけではなく、純粋な疑問なのですが」
「ここにはきみとぼくしかいません。お好きに話してください」
「あの帽子、邪魔じゃないですか?」
「たぶん、勇者さんのフードもそう思われていますよ」
「これは絶対必要です」
「では、魔女にとってもとんがり帽子は必要なのですよ」
「帽子はいいんですよ。とんがっているところが必要かどうかって話です」
「きっと鳩を入れるんですよ」
「ハッ、なるほど」
「納得しないでください。冗談です」
「でも、武器くらいは隠せそうですよね。私も被ろうかな。フードの上に」
「被りづらっ!」
「魔女のイメージを破壊するため、帽子を変更する提案をします」
「好きで被っている人もいると思いますよ」
「あくまで会話の中だけです。世の魔女たちのヘイトを買うつもりはありません」
「シルクハットにするのはどうでしょう?」
「魔王さんこそヘイトを買えばいいですよ」
「ぼくなりの提案をしたはずなのですが」
「シルクハットで空を飛べるわけないじゃないですか。空気抵抗を考えてください」
「とんがり帽子も似たようなもんですよ」
「風を上に受け流す完璧な構造ですよ。なんのために被っていると思っているのですか」
「とんがり帽子廃止を唱えたのはどこの誰でしたっけ」
「とんがり帽子反対委員会会長トン・ガリ子さんです」
「休憩したいのならそう言えばいいんですよ?」
「まだ平気です。ちょっと土踏まずの感覚がない程度です」
「踏んでないのに感覚がないんですね。あれ、踏んでいないから感覚があ――んん?」
「お疲れでしたら休憩しましょうか」
「脳の疲労を覚えたので休憩させてください」
「いいですよ。ということで、休憩のおとも、とんがりスコーンです」
「かなり危ういところを突きますね」
「ただのスコーンです。形がとんがっているだけの」
「勇者さんに言われて作りましたが、なぜとんがらせる必要があったのでしょう」
「反抗期ですかね」
「そういう意味のとんがりではなく。もう魔女の方々に訊くしかないのでしょうか」
「ここにはあなたと私しかいません。スコーンにでも訊いてください」
「言葉を持つものはぼくたちだけなのですよ」
「わっ、これ甘いです。チョコチップが入ってる! わぁい。うれしいです」
「言葉を持ちながらも会話が一方通行になることはよくありますけど……。勇者さんがうれしそうなのでもうなんでもいいです」
「備蓄品も入れておけそうですよね」
「あ、まだその話続いていたんですね。たしかに、物を入れることは可能でしょうけど」
「お菓子いっぱい入れて、帽子を傾けるたびにロリポップが出てくるんです」
「夢がありますね。こどもたちに人気の魔女さんになりそうです」
「私も好きになっちゃう」
「ぼく、とんがり帽子買ってきます!」
「魔王さんはポシェットからお菓子出すじゃないですか」
「いつも勇者さんに『質量保存の法則……』という目で見られていますね」
「それに、意味わからん輪っかが頭にあることを忘れないでください」
「自分でもよく忘れるんですよ、これ」
「もう取ってしまえよ……」
「大事な役割があるんです。きみと旅をしている間はつけていますよ」
「じゃあ、とんがり帽子のお菓子魔王さんはお預けですね」
「ちょっと被るくらいならできますよ。常備しておきますか?」
「そもそもどこで売っているんでしょうね、あの帽子。帽子屋でも見たことないですよ」
「魔法使いたちが使っているお店とかでしょうか? 魔法使いや魔女以外が入ってこないように結界魔法で隠されているものが多いと聞きますし」
「へえ。ちょっと楽しそうですね。ファンタジーって感じで」
「ぼくたちもファンタジー代表なんですけど……」
「帽子は遠くからでもよく見えますからね。魔女の象徴かつファンタジーの代名詞としてとんがり帽子は必要不可欠ということです」
「邪魔って言っていたのに」
「シルクハットを被る魔女よりはマシでしょう」
「ですが、お菓子詰め込み勝負ならシルクハットの勝ちですよ」
「いや別に勝負していない。それに、私も魔女のとんがり帽子、気に入っていますから」
「あれ、そうなんですか?」
「先端で攻撃できそう」
「勇者さんはお菓子詰めていてください」
お読みいただきありがとうございました。
勇者さんが望むならお菓子を詰めるアナスタシアさん。
勇者「逆向きにすれば雨水も貯められる」
魔王「こぼれるしみ出す」
勇者「鳥の巣にもできる」
魔王「帽子をどうしたいんですか」