28.会話 読み書きの話
本日もこんばんは。
作品内における現段階での識字率は50%(勇者さん×、魔王さん○)です。
「何を書いているんですか?」
「日記です。簡単な旅の記録みたいなものですね」
「へえ。魔王さん、そんなことしていたんですね」
「一日の終わりに書いているんです。今日あったこと、話したこと、思ったことなど」
「変なこと書いてないでしょうね?」
「し、失礼ですね。何の変哲もない日記ですよう。の、覗かないでください!」
「まあ、見たところで読めないんですけどね」
「……そうでしたか。ちなみに、書く方は?」
「できません。そういった能力は必要ない人生でしたので」
「もし迷惑でなければ、ぼくが教えてあげますよ。読み書きができるだけで、だいぶ世界が広がりますし」
「めちゃくちゃめんどくさそうですが、若干興味があるのも事実です」
「まずは親しみのある言葉から始めましょうか。えーと、『爛腸之食』」
「難しい難しい。なんですか、それ?」
「食べ過ぎることを表す言葉です。勇者さんにぴったりです」
「たしかにぴったりですけど、もう少し簡単なやつでお願いします」
「では、『飲食之人』」
「意味は?」
「食べること飲むことだけを楽しみにしている人のことです」
「だらけることも楽しみなので当てはまりません」
「勇者さんは書いてみたい言葉はありますか?」
「そうですね……。『飢腸轆轆』でしょうか」
「いや、むず⁉ なんですか、それ」
「今の私を表す言葉です」
「つまり?」
「お腹すきました」
「では、もっと親しみのある言葉にして気分を変えましょう。これが『勇者』、これが『魔王』です」
「画数が多くてめんどうですね。『すごいやつ』、『やばいやつ』に改名しません?」
「その流れだと、魔王がやばいやつになるんですが」
「勇者と魔王です」
「ルビがおかしい! せめて逆にしてくださいよ」
「私のどこがやばいやつなんですか」
「ぼくの目を見て言ってください?」
「次に行きましょう。もっと初心者向けの言葉はないんですか?」
「今は昔、竹取の翁といふものありけり。野山にまじりて竹を――」
「待て待て待て。古文は初心者には難しいでしょうよ。しかも言葉じゃなくて物語」
「古文? でもこれ、この間かぐや姫さんから聞いた話ですよ?」
「かぐや姫さん」
「『波乱万丈な人生だったのですが、聞きます? いえ、聞いてくださいませ!』と」
「押しが強い」
「『帰る時間なので手短に話しますわ!』と言って、五時間ほど話して帰られました」
「手短とは」
「みなさんいろんな人生がありますね」
「魔王さんの交友関係に興味が湧いた自分が不覚です」
「ぼくの言葉で記録してほしいとのことでして、書き起こしたのがこちらになります」
「うわ、見事な装丁ですね。題名はなんて書いてるんですか?」
「『転生したらお姫様でした~竹の中は案外住み良い~』です」
「題名のセンス皆無」
「かぐや姫さんのリクエストですよ」
「読む気失せる……」
「文字の練習に使っていいですよ」
「いや、これ古文ですし」
「現代語版はこちらに」
「用意がいい……」
「そして、これが勇者さん用読み書きドリルです」
「……用意がよすぎる。なにが狙いですか」
「えっ⁉ いえ、別になにも企てていませんよ……」
「企てているんですね。吐け」
「……お手紙交換とか、してみたいなとか、思ってたり思ってなかったり……」
「手紙ですか。まあ、構いませんよ」
「いいんですか⁉」
「遺書を書きます」
「もっと楽しいやつにしてくださいよう」
「ちなみに、日記には私のことも書くんですか?」
「もちろんですよ。勇者さんとの日々を書いているんですから。あ、いやでした?」
「お好きにどうぞ。私は……いいや。どうせ読み書きはできませんから」
「きっといつかできるようになりますよ、勇者さん」
「笑顔でドリルを積み上げるな」
お読みいただきありがとうございました。
かぐや姫さん(職業:ラノベ作家)
勇者「魔王さんも本を出したりするんですか?」
魔王「ぼくは読む専ですよ~」
勇者「日記は違うんですか」
魔王「誰でも読んでいいわけではありませんからね!」
勇者「いつか書き写して販売してやろう。題名は『魔王の黒歴史』で」
魔王「公開処刑じゃないですか!」




