279.会話 肩こりの話
本日もこんばんは。
勇者さんはお若いのに肩こりに悩んでいるそうです。
「うー……。肩が痛い。肩がこってしんどい……」
「だいじょうぶですか? そんな大きな大剣を背負っていれば肩もこりますよ。これを機に、武器を変えるというのはどうでしょう? かわいいやつに」
「かわいい武器ってなんですか」
「うーん、カッチカチに凍らせたバナナとか?」
「釘を打つためだけに凍らされるバナナの気持ちを考えてください」
「フライパンとおたまで鼓膜破壊攻撃とか?」
「私の耳も死ぬ」
「パレットナイフとかどうですか? お菓子作りに使うんですけど、あれで攻撃しても威力は出ると思いますよ。特に勇者さんは急所を狙いますし」
「武器っぽいですけど、武器になるかと言われると……。微妙なとこですね」
「勇者さん、小柄なので小さめの武器がいいと思うんですよ。大剣をぶんぶん振り回すのもかっこいいですが、いつも邪魔とか重いとか言っていますし」
「事実です」
「肩もこるでしょう?」
「やれやれですよ。場所も取るし、かさばるし。背負うしか運ぶ方法はないですし、簡単に隠すこともできません。一目でやべえ奴だとわかります」
「深層心理から形成された武器でしたっけ。ですが、それを使わなきゃいけないってわけでもないでしょう? これまでの勇者さんたちも、深層心理武器が使いにくくて最初から持ってこなかった人も多いですよ」
「深層心理武器って一番使いやすそうなんですけどね」
「特別な力でもあれば許せますけど……。そういったものは?」
「特にないと思いますよ。まじで邪魔ですよね」
「一番の弊害はなんですか?」
「最初は大きさゆえの違和感とか扱いにくさだったんですけど、使い慣れてくるとやっぱり肩こりですかね。はー、肩が痛い。重いー……」
「よろしければ、ぼくが肩もみいたしますよ?」
「…………」
「な、なんですかその目は……」
「変なこと考えてないかなって……」
「考えていませんよ! そんなやましいことなど一切多少は合法的に勇者さんの肩をもめるということに喜びを感じていますがただのマッサージですし肩がこっていては今後の勇者業にも影響が出ると思っているので実質勇者さんのサポートみたいなものですしあくまでこりを解消させる目的で提案しているだけでやましいことなど一切なにもありません」
「まあ、いつも通りって感じですね」
「触れられるのがいやならば、ビニール手袋の上に毛糸の手袋をしてさらに服で手を覆い勇者さんの肩にタオルをかけますが、どうしますか?」
「そこまでしなくていいですよ」
「では、失礼して。うふふふふふ合法~。合法~」
「黙った方がいいと思います」
「すみません、つい。って、大剣の弊害がすごいですね。やっぱり武器を変えましょう」
「どんな武器がいいのかわかりません」
「遠距離攻撃が可能な飛び道具はいかがでしょうか。弓矢とか銃とか」
「慣れるのが大変そうですね」
「剣に馴染んでいるのならば、大きさを変えるのもひとつの手ですよ」
「小さめの剣ですか」
「いわゆる片手剣ですね。種類もいろいろありますから、今度武器屋さんに行って見てみましょうか」
「乗り換える気満々ですね。私の武器なのに」
「勇者さんが重いとか疲れたとか言って、ぼくの上に大剣を放り投げるからです」
「地面に置くのもどうかと思いまして」
「いつも地面に放り棄てるのに……。いいですか、深層心理による武器というものは多少勇者の力がこもっているものです。まじで多少ですけど。ですが、その多少ぱぅわぁーですら、魔王であるぼくには効くのですよ。強めの静電気くらい」
「それはガマンできるでしょう」
「バチッとくる感じがいやなんですよう!」
「電気で肩こり解消」
「くらっているのはぼくですからね」
「大剣で肩をばんばん叩いたら気持ちよさそうです」
「斬れる。斬れます肩が」
「かなり痛いので斬れてもわからない説が」
「ないです。血が出るのでわかります」
「肩がこりすぎて血が通っていないと思うんですよ」
「でしたら、今頃勇者さんはあの世です」
「おっ、いいですね」
「よくない! ほら、動かないでください。ほぐしほぐしほぐしほぐし!」
「よきかな……。あ、でも、武器を変えて肩こりが解消したら、魔王さんに肩もみしてもらわなくて済みますね」
「……しばらくは大剣のままでもいいと思います。使い慣れているのが一番です」
「凝り固まった魔王さんの欲望こそほぐすべきですよ」
お読みいただきありがとうございました。
勇者さんはいろんな意味でこの大剣が好きではありません。
勇者「私も肩もみいたしますよ」
魔王「エッ⁉ ほ、ほんとですか?」
勇者「寝首をかくのにはうってつけですね」
魔王「やはりそれが目的ですか……」