274.会話 養子の話
本日もこんばんは。
実はかなり本気な魔王さん。
「勇者さん、今日はとてもいい天気ですね。雲の流れも穏やかで、心地よい気温でお昼寝にぴったりです。こんな日はぼくの養子になるしかないと思いませんか?」
「誘導へたくそさんですか?」
「だ、だって勇者さんのことですから、ふつうに言ってもだめだと思ってぇ……」
「私のことをなんだと思っているんですか」
「で、では、こちらの養子縁組届にサインを――」
「お断りします」
「あぁぁぁああぁ~……。やっぱりぃ~……」
「勇者が魔王の養子なるってなんです? 世界の終わりですか」
「むしろ新時代の到来だと思います」
「真顔で言わないでください」
「ぼくを信じて」
「いやです。そういう繋がりを持つのは私の役目ではありません」
「なぜです? 養子になったら相続権ももらえるんですよ?」
「相続って、魔王さんが死なないとお金もらえないやつですよね」
「そこはほら、改竄……とか? えへへ」
「真っ当な悪事で安心しました」
「心配するところですよ」
「なんで養子にこだわるんですか? 見た目的には姉妹だと思いますが」
「やっぱり、勇者さんの授業参観に行きたくて……」
「いつぞやのやつ、本気だったんですか」
「娘ですって言うのが夢です」
「嘘だと思われておわりですよ。まだ姉妹の方が騙せます」
「騙すつもりはないんですけどね。養子というものは、血の繋がりがなくとも家族になれるものです。絆と愛で結ばれる親子の縁……。あとお金」
「最後」
「必要でしょう! おいしいもの食べてもらってかわいい服を着てもらっていろんなところに行く旅費も必要で当然学費も発生してあれやそれやどれやこれや!」
「まあ、所持金ゼロでは生きていけませんからね」
「ということで、愛とお金でみれば、ぼくは養親レベルマックスだと思うんですよ」
「魔王さんのこどもは不自由なく暮らせるでしょうね」
「そうでしょうそうでしょう。では、こちらの養子縁組届に――」
「お断りします」
「なにゆえ⁉ 舞台は整ったじゃないですか」
「そもそも、私に親とかちょっと」
「世の中を探して、ぼくのようなすてきな親がいますか?」
「あいにく世間を知らないもので」
「養子縁組の難しいところですね。親はよくても子に不安が残ってしまう……。なんとか親子の縁を結びたいので、ぼくの愛をお見せしなくてはいけません」
「見せんでいい見せんでいい」
「では、敵意がないことを示すために服を脱――ぐのは年齢制限なのでナシとして」
「脱いだら斬りかかるつもりでした」
「安心安全に愛を伝えるために、まずは三時間ほど語る会を開催します」
「昼寝していていいですか?」
「次にこれでもかとおもてなしし、緊張をほぐします」
「たぶん、最初にやるべきことだと思いますよ」
「最後に、一緒にご飯を食べてフィニッシュです。はっぴー養子縁組爆誕」
「たしかに、食事は気が緩みますね。おいしいものは思考を妨げます。判断能力が低下した状態でサインを求められたら応えてしまう人もいるでしょう」
「そんな罠みたいに言わなくてもぉ……」
「ふむ、魔王城でのあれも作戦だったのですね。まんまとやられましたよ」
「純粋レベルマックスで一緒にご飯を食べたかっただけですよう」
「ところで、養子になったらなにをするんですか?」
「それは、おでかけしたり、ご飯を食べたり、おはようとかおやすみを言ったり、同じ場所で暮らしたり?」
「今と変わりませんね」
「それは……そうですね。たしかに、その通りです」
「てことで、養子にならなくてもよーし」
「……ボケました?」
「うるせえんですよ。最初に養子って言いだした魔王さんのせいです」
「理不尽! でもこれがいつもの勇者さんでぼくとしてはようし!」
「……やかましいわ」
「ですが、養子縁組を諦めたぼくではありません」
「まだ言うか」
「この紙は何度燃やされても復活します。めちゃくちゃコピーしたので」
「やたらと養子にこだわりますね」
「もちろんです。ぼくは欲望のためならしぶとく食らいつきますから」
「往生際の悪いことで」
「なんと言われようと関係ありません。そう、勇者さんの授業参観に行くためなら!」
「授業参観と何があったんですか」
お読みいただきありがとうございました。
授業参観にただならぬ憧れを持つ魔王さん。
勇者「私の親とか絶対大変ですよ」
魔王「ぜーんぜん平気です。むしろ毎日はっぴー間違いなし!」
勇者「魔王さんが親なのも大変」
魔王「ぼくも⁉」