273.会話 宝石の話・イミテーション
本日もこんばんは。
本物とイミテーションの区別がつきません。
「じゃーん、見てくださいこの宝石を! どうですか? お好きなものはありますか?」
「お好きなものって……。宝石って高価ですよね? い、いくら使ったんです……」
「ご安心ください。勇者さんにドン引きされると思ってイミテーションにしましたから」
「イミテーション?」
「人造宝石のことです。ええと、たとえばこれ、ダイヤモンドです」
「ダイヤモンドですと言われても」
「よく見てください。ガラスでできているんですよ。はい、どうぞ」
「ちょっと……! あ、ほんとだ。びっくりした……。よくできていますね」
「勇者さんに宝石をプレゼントし――おっとっとーい、きれいな宝石ですねぇ!」
「そうですね。とてもきれいですけど、これが安く買えるんですか」
「ピンキリではありますけどね。これなんかジュース一本分の値段です」
「へえ。これは?」
「高級焼肉フルコース分」
「げっ。雑に持ってしまった……。置いとこ……」
「さてさて、勇者さんのお気に入りの宝石はなんですか? なんですか?」
「お気に入りの宝石と言われても……。あ、これは結構好き、かもです」
「サファイアですね。青色の宝石では定番中の定番!」
「これは、前に行った海のような色をしていますね」
「アクアマリンといいます。いいチョイスですね!」
「これもいいですね。きれいです」
「ラピスラズリですか。見事に青系を選ぶ勇者さんです」
「……。魔王さんはどうせこれとかこれ、あとこれを選ぶんでしょう?」
「ルビーにレッド・スピネル、ルベライトですか。そのとーりです!」
「それで、宝石を愛でたのはいいですけど、どうするんですか?」
「本物を買う時の参考にしようかと」
「そうじゃなくて、これらの今後ですよ」
「あー。お好きに使っていただいて構いませんよ。ぼくはいらないので」
「ほんとうに好みを図るためだけに買ってきたんですか」
「そうですよ?」
「お店で見ればいいのに……」
「人間がいるところは勇者さんがいやがるので」
「優先順位がおかしいんだぁ……。どう思います、サファイアさん?」
「勇者さんが宝石に話しかけ始めてしまった」
「もうちょっと使い道を考えてくれないとやるせないとおっしゃっています」
「やるせないかぁ。それは困りますね。では、宝石の名前を当てたらそのイミテーションの値段分の料理を贈呈するということで、いかがでしょうか?」
「宝石の名前を私が知っていると思っておられるなら構いませんよ」
「それでは参りましょう! 問題! こちらの宝石の名前はなーに?」
「私に手を向けられても何も持っていませんよ。あ、サファイアのことですか?」
「ぶっぶーです」
「私のうしろ……? いや、何もありませんけど」
「つまり?」
「つまりって、魔王さんが指しているのは私で宝石じゃな――」
「ピンポンピンポンだいせいか~い!」
「は?」
「答えは勇者さんです。そう、きみこそが宝石なのですよ!」
「…………」
「あの、ちょっと、無言でジオードを押し付けないでくださ、あの痛いですこれ、細かい角が突き刺さって痛、あの勇者さん? 聞いてます? あのー⁉」
「いやぁ、わけのわからないことを言うものですから」
「本心です。にっこり」
「…………」
「いだだだだだ! 潰れちゃう! 潰れちゃいますぼくが!」
「後は野となれ山となれ宝石となれ」
「こ、ことわざの意味が違いますよう……。ん? 待ってください。ぼくに宝石になれということは、きれいな宝石になったら勇者さんが愛でてくれるんですか?」
「宝石は高価なので散歩がてら質屋に行きます」
「う、売られる……!」
「魔王さんの目は詐欺ですがきれいです。まるでイミテーションのようですね」
「褒め言葉として受け取っておきますね」
「ぜひ抉り出して売りに行きましょう」
「ぼくの目がなくなっちゃいますよう」
「そこはほら、このサファイアを埋め込んで」
「おそろしい提案をしてきますね、きみは」
「イミテーション同士、仲良くできますよ」
「ですから、宝石に自我はありませんってば」
「聞こえませんか? 『お前の眼窩に入りたい』って」
「こっわぁ……。そんなこわい宝石は愛でません。ぼくはぼくだけの宝石を愛でます」
「なんで私を見るんですか」
「世界で一番きれいな宝石があるので愛でているのですよ」
お読みいただきありがとうございました。
人間の赤目は一部界隈で狂信的な人気があります(魔なるものは死んだら消えるため)。
勇者「魔王さんって意外と庶民的なところがありますよね」
魔王「そうですか?」
勇者「絵画や宝石みたいな高価なものにあまり興味がないじゃないですか」
魔王「最も大事なものがプライスレスだからでしょうね」