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27.会話 写真の話

本日もこんばんは。

この世界はファンタジーなのでカメラもあります。なんでもあります。

「む? なにか足に当たりました」

「おや、落とし物のようですね。これはカメラでしょうか」

「カメラってなんですか?」

「写真を撮る道具ですね。試しに撮ってみましょうか」

「いやです」

「いやです⁉ なんでですか。思い出が残りますよ」

「思い出なんか残して何になるんです。おいしいんですか」

「いつか見返した時に、こんなこともあったなぁとお話するんですよ」

「いつも喋っているじゃないですか。くだらないことを」

「写真は瞬間をずっと残しておけるんですよ。素晴らしい発明です。ひと昔前は、写真に撮られると魂を抜かれるという噂もあったり――」

「貸してください」

「興味出ました? 撮りましょう!」

「いえ、魔王さんを単独で撮ります」

「なぜ……。ぼくは勇者さんと一緒に撮りたいんですよ」

「写真を撮ると魂が抜けるのでしょう? ぜひ」

「ぼくの魂を取るおつもりで?」

「そもそも、魔王に魂があるのか知りませんけど。物は試しです」

「お試し感覚で魂を抜くのやめてください」

「何事も挑戦です」

「物は言いようですね。ならば勇者さんも道連れですよ」

「ちょっと、腕を引っ張るのやめてください。カメラが落ちます」

「タイマー機能がありますから、ふたりで撮れますよ。ほら、カメラをセットしましょう」

「いやですよ。自分の姿が残るとか考えただけで悪寒がします」

「だいじょうぶです。傍から見たらかわいい女の子がふたりで写真を撮っているだけですから」

「ツッコみたい……。いろいろツッコみたい……」

「勇者さんの見た目が好きな神様が写真をくれと言ってくるかもしれませんね」

「…………」

「……あっぶないですね! 叩き壊そうとしないでくださいよ。精密機器なんですから」

「あのくそったれ神様に写真などくれてやるものか……」

「じゃあ、ぼくは?」

「神様と魔王さんなら一切の迷いなく魔王さんを選びます」

「わあい! じゃ、写真撮りましょう」

「いや、撮ると決めたわけでは――、力強っ。びくともしない……」

「タイマーセット完了です。いいですか、勇者さん。『はい、チーズ』と言ったら笑顔で止まってくださいね」

「なんの呪文ですか、それ。牧場の回し者ですか」

「そういうわけではないですが。気になるようでしたら、オリジナルの文句を考えましょうか?」

「もっとカロリーのあるものがいいです。『はい、焼き肉』とか」

「ちょっと語感が……。ケーキはどうですか?」

「いいですね。『はい』の部分をチョコにしてもよさそうです」

「『チョコ』『ケーキ』で分担するんですね。かわいいです」

「『ビー』『フシチュー』もおいしそうです」

「『ビーフ』『シチュー』じゃないんですね。ぼくはたまに勇者さんの切り口が謎です」

「『鉄火』『丼』もいいですね」

「『丼』のところがインパクトありますね。勢いが良いです」

「思わずのしかかって潰したくなりますね」

「ぐえっ……。勇者さん、あの、ぼくにはその剣、重いんですが……」

「可憐な女の子に重いだなんて、デリカシーがないですよ」

「ツッコみたい……。いろいろツッコみたい……」

「『ハンバーグ』『ステーキ』もいいですね。『プリン』『アラモード』とか」

「変身しそうですね。にしても、例のごとく、勇者さんはお腹がすいたようですけど」

「いやあ、写真に撮られると聞き、緊張してエネルギーを消費したようです」

「勇者さんも緊張するんですね」

「シャッターが下りた瞬間に魔王さんに制止されないようカメラを破壊しに行くのは至難の業ですから」

「盛大にバラしていますがだいじょうぶですか?」

「がんばります」

「がんばらないでください」

「さて、魂を抜く呪術の文言ですが、どれにしましょう?」

「ただの記念撮影ですからね。ぼくとしてはチョコケーキがいいかなと」

「では、私はチョコをいただきます」

「ぼくはケーキ担当ですね。あ、そろそろですよ。勇者さん、お願いします」

「チョコ」

「ケーキっ!」

「……ふむ。生きてますね」

「当然です。ただの機械なんですから」

「後ろ手でがっちりホールドされ破壊を阻止されましたが、写真の確認をしに行くくらい許してくださいよ」

「ぼくも一緒に見ますからね」

「どれどれ……。へえ」

「きれいに撮れていますね。すてきです! 現像しましょう、勇者さん」

「げんぞう、ですか」

「お守りみたいに手元に置いておきたいです」

「そんなことしなくても」

「あっ、カメラ持って行かないでくださいよう」

「いろんな機能があるんですねぇ。あ、魔王さん」

「なんですか?」

「間違えて消しちゃいました」

「ええええーーー⁉」

「嘘です」

「ほあぁぁぁ……。脅かさないでくださいよう……」

「魔王さん」

「はい?」

「チョコ?」

「ケーキっ!」

「……ふっ」

「なんですかなんですか? なに笑ってるんです?」

「スキばかりですね」

「今のは写真を撮る決め文句じゃないですかー!」

「他の人には通じませんけどね」

「さっきからカメラをいじっているようですが、消えないように気をつけてくださいね」

「だいじょうぶです。もう慣れました。はい、どうぞ」

「ありがとうございま――って、フィルム!」

「これはいただきますね。安心してください。ちゃんと現像してお渡ししますから」

「それならいいですけど……、捨てちゃいやですからね」

「わかってますよ。なにせ私の遺影になりますからね」

「縁起でもないこと言わないでください……」

「一枚しか現像しませんから、大事にしてください。この世界でたった一枚の私の記録です」

「一枚? ぼくと勇者さんの分で二枚ほしいですよ」

「いえ、私のは別にありますから」

お読みいただきありがとうございました。

この後勇者さんはちゃんと現像して渡しました。一枚だけ。


魔王「写真立てに入れてみました! えへへへへへ~」

勇者「燃やしていいですか?」

魔王「びゃああああああああ‼」

勇者「冗談にしておいてあげましょう。……耳が死ぬかと思った」

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