268.会話 取り調べの話
本日もこんばんは。
刑事ドラマでよくある取り調べの話です。
「どうも、テレビを観ていると思ったら突然カーテンを閉めて机を動かしライトをつけ椅子を二脚準備した勇者さんの行動の意味がわからなくて困惑している魔王です」
「取調室を再現しました」
「取調室」
「魔王さん、私を取り調べてください」
「行動と発言の意味を調べればよろしいでしょうか」
「いま、刑事ドラマとやらを観ていたんですけど」
「なんでしょう、なぜか察しがつくんですけど、おかしいですね、おかしいな」
「取り調べの時にはカツ丼が出てくるんですって」
「やっぱりかぁ」
「いいことを知りました。ふふん」
「今日のお昼はカツ丼に決まりですね。ぼくが作りますよ」
「わぁい。ところで、なぜ取り調べではカツ丼なのでしょう」
「カツ丼のおいしさで情報を吐かせる作戦とか?」
「それなら熱々のステーキの方がしゃべると思います」
「取調室でじゅーじゅーやってたらおかしいですよ」
「警官の人たちが一口ちょうだい、私にも一口って寄ってきますね」
「己を律していただいて」
「目の前にスイーツを並べて、ひとつ情報を吐いたら一口食べてもいいとか」
「吐いて食べるんですねぇ」
「カツ丼だけじゃなくて、スープとお茶もほしいところです」
「取り調べられているのに豪華なことです」
「腹が減ってはなにもしゃべれぬって言うじゃないですか」
「戦です、戦」
「事件を解決するために奔走する警察官にとっては戦みたいなものですよ」
「ここでカツ丼食べているのは取り調べられる側ですからね?」
「仕方ありませんね、やっぱり一口ってことですよ」
「各々注文すればよい……」
「お店から運ばれてきたカツ丼は、到着したのが取調室だった時に何を思うのでしょう」
「カツ丼の気持ちは考えたことがなくて……」
「『もしかして、今から取り調べられる⁉』と思うんでしょうか」
「なにか悪いことしたんですか、カツ丼」
「衣でかさ増しし、使う肉の量を減らしていたとか」
「それは作った人が悪いのでカツ丼に罪はありませんよ」
「『知っていたのに止められなかった……。だから私も同罪なの……!』って」
「止められないでしょうね、カツ丼ですから」
「そうして流れる涙が肉汁となるのです」
「これから肉汁あふれる料理を喜べなくなるじゃないですか……」
「『もっと日の当たるすてきな場所で食べられたかったな……』と言っておしまいです」
「切ない……。取調室から始まるカツ丼のストーリー……。取調室から始まるカツ丼のストーリーってなんですか? カツ丼のストーリーってなに?」
「相手を困惑させることで隠していた情報をしゃべらせる戦法です」
「取り調べられているのは勇者さんのはずでしたが」
「いつから取り調べているのが自分だと思っていたのです?」
「ええと、最初からですね」
「ところで何を取り調べているんでしたっけ。カツ丼の淡く脆い青春ストーリー?」
「脳の疲労を感じるので休憩にしましょうか」
「お昼ごはんですか? わぁい、カツ丼の時間です」
「すぐ作るので待っててくださいね。刑事ドラマの続きでもご覧になっていてください」
「簡易取調室の状態で観ることにします。……実際のところ、ほんとうにカツ丼は出てくるのでしょうか。真相を探るために捕まってみます?」
「そんなことのために犯罪に手を染めてはいけませんよう」
「いえ、魔王さんが」
「ぼくならいつでも指名手配ですけどもぉ……」
「ていうか、カツ丼ひとつだけじゃ足りないですよ。もっと食べたい」
「さすがに一杯だけでしょうねぇ」
「ひたすら食べ続けて情報を吐かない作戦。黙秘の新たな形です」
「取り調べ時間は八時間くらいと聞いたことがありますよ」
「八時間カツ丼はきついですね。途中でステーキやラーメン、スイーツを挟まないと」
「まさかの味変」
「魔王さん、ちょっと来てください」
「なんですか?」
「ここに座って、はい、いい感じです。では、いきます」
「え、なにがですか、あの、ちょっと――」
「バァン! いい加減に罪を認めたらどうですか!」
「な、なんのですか⁉ あ、刑事ドラマの再現ですね。びっくりしました」
「魔王さんが昨日、私の後ろ姿を盗撮した罪についてです」
「ぎくっ。しょ、証拠はあるんですか、証拠は」
「こちらに現像した写真が」
「アアーッ! 見つからないと思ったら押収されてたー!」
お読みいただきありがとうございました。
勇者さんはこれをやるために盗撮を見逃しました。
勇者「他に罪は?」
魔王「お食事中とお風呂上りと勉強中の勇者さんも盗撮しました!」
勇者「それは知らない話ですね。詳しく聞かせてください」
魔王「……あれ、はめられた?」