267.会話 ラプンツェルの話
本日もこんばんは。
今回犠牲になる童話は『ラプンツェル』です。
「ご自分の髪を見つめてどうしました? 今日もとってもきれいな黒髪ですよ」
「そうじゃなくて……。この物語を読んだんですけど」
「『ラプンツェル』ですか。お姫様と王子様が結ばれる王道童話ですね」
「あの髪、絶対邪魔だと思うんです」
「今回の気になるポイントはそこですか。ですが、ぼくもたしかにあの長さはいろいろと大変だろうと思いましたよ」
「絶対肩がこる……。首が痛くなる……。動きたくなくなる……」
「想像しただけで勇者さんがダウンしている」
「長い髪を塔から垂らし、それをよじ登るって意味わかりません」
「ファンタジーって感じがしますね」
「髪の毛をはしご代わりにして登るなんて、難易度高すぎですよ。そんなことができるなら、ふつうに塔をよじ登れるでしょう」
「髪の毛を掴んで登るのは足腰強くないと無理ですねぇ」
「ていうか、魔法使いなら魔法で飛んでこいよ」
「それはたしかに、たしかに……。ふ、浮遊魔法が苦手だったんですよ、きっと」
「髪の毛を引っ張られるのって痛いんですよ。このお姫様、かなりガマンしたはずです」
「王子様も髪の毛で登っていますもんね」
「入口がないから髪の毛を使って窓から入るんですよね。じゃあ、この塔はどうやって建設したんですか。魔法ですか」
「おそらく……?」
「そんな魔法があるなら魔法で登れるようにしておけ……」
「今日は一段とお疲れのご様子ですね」
「ラプンツェルさんのお風呂を想像しただけで疲労がえげつないんです」
「あの髪の長さでは洗うのが一苦労でしょうね」
「三分割にして、三日に分けて洗っているのかもしれません。でなければ、ラプンツェルさんの腕の筋肉が大変なことになります」
「華奢な少女には重労働です」
「実は、腕の筋肉だけすごいとか……」
「あ、あんまり見たくはないですね」
「塔から出られないラプンツェルさんは、毎日なにをして過ごしていたのでしょう」
「景色を見たり、歌を歌ったり?」
「枝毛を探したり……」
「ずいぶんリアルなやつきましたね」
「一度気になるとたくさん見つかるやつです」
「長いこと切っていないでしょうから、あるでしょうね……」
「でも、あれだけ長いとさぞかし冬はあたたかいでしょうね。布団いらずです」
「お布団で寝てください」
「髪を引きずるので掃除もしなくていいです」
「掃除してください」
「髪の毛を網にして野鳥を捕まえられます」
「一気に難易度が」
「塔の上の焼き鳥パーティー」
「色気のなさ」
「香ばしい焼き鳥の匂いにつられて王子様がラプンツェルさんを見つけるのです」
「アッ、知らない展開」
「高い塔にいながら、どうやって鳥を捕まえたのか訊く王子様。ラプンツェルさんは答えます。『私の髪の毛はすべてを可能にするわ』と」
「自信家なんですね、ラプンツェルさん」
「王子様は胸打たれ、髪の毛で鳥を捕獲する術を伝授してほしいと頼むのです」
「王子様の髪の毛じゃ無理で――って、なにを真面目にコメントしているのでしょう」
「そこから、ラプンツェルさんと王子様は鳥を捕獲しながら次第に愛を深め……」
「後半一気に置いてけぼり」
「焼き鳥で結ばれたふたりは塔をおりてまだ見ぬ鳥を目指して旅に出るのです」
「ぼくの知らない『ラプンツェル』を読んだみたいですね」
「こんな物語読みたくないです」
「ご自分で捏造しておいて」
「塔の上ではどんなご飯を食べていたのか気になったら、もう止まらなくなってしまい」
「そこから塔の上の焼き鳥パーティーが生まれる想像力の方が気になりますよ」
「あまりの長さに驚いた私ですが、長いことのメリットも多いとわかりました」
「野鳥捕獲は違いますからね?」
「道具ナシで相手の首を絞めることができます」
「物騒なメリット」
「編みこみにすれば、いくらでも荷物を挿し込めます」
「ふつうに鞄を持ってください」
「井戸から出るだけでホラー映画のオファーが殺到します」
「塔から髪が垂れているのもこわいですよ」
「こわいといえば、頻繁に髪の毛で登らせているのなら、頭皮が心配ですね」
「……ちょっと勇者さん、ラプンツェルさんは女の子なんですからそういうことは」
「思い切って散発するのをおすすめします。つるぺかに」
「思い切りすぎです」
お読みいただきありがとうございました。
どうせ切るならばっさり切りたい派の勇者さん。
勇者「きっと長年の肩こりに悩まされていることでしょう」
魔王「しんどいですもんね……」
勇者「私なら一歩も動かないでしょう」
魔王「それは割といつもというか」