266.会話 心霊スポットの話
本日もこんばんは。
現実での不法侵入はだめですが、ファンタジーワールドでならいくらでも侵入しておっけーです。
「テレビで心霊スポットに行く人たちが撮った心霊映像というものを見たんです」
「どうりで勇者さんとの距離がいつもより近いと思っ――なんでもないです」
「自分が好きで行ったくせに、わーわーぎゃーぎゃーとやかましい人たちでした」
「不法侵入はよくないですねぇ」
「わざわざ真っ暗闇の深夜に行くのもおばかさんです」
「幽霊は夜が定番ですから」
「いい歳した人間がちょっとした物音でびびるなんて愚かですよ」
「それを見てびびっている勇者さんはとってもかわい――なんでもないです」
「私はね、思ったんです。昼間に行けよって」
「仕方ありません。夜に肝試しをするのが楽しいと思っているのでしょうし、ああいう動画を撮るのが目的ならば、やはり夜という時間は欠かせないものなのですよ」
「魔なるものたちだって出るんですよ」
「心霊動画を撮っている人たちは魔除けの道具を持って行っているみたいですね」
「ならず者には効果がないようにしてやりたい」
「まあまあ。中にはパチモンも混ざっていますし、そう易々と聖なる力が籠められた道具は手に入りませんから」
「パチモンが横行する世の中もどうかと思いますけど……。いい商売ですよ、まったく」
「罰当たりですよね~」
「とにかく、心霊スポットですよ。こわいのに行くのもよくわかりませんが、私が一番わからないのは数です」
「数? 人数ですか?」
「はい。五百人で行けばこわくないと思うのです」
「それは……こわくないですね。ギャグ寄り動画になりますね」
「夜に懐中電灯だけというのも危険です。輝くミラーボールを四方に置くべきですよ」
「雰囲気が崩壊する音がしました」
「女性は乗り移られやすいと聞いたことがあります」
「そんな風に言われていますねぇ。勇者さんもお気をつけください」
「仮装をして性別がわからないようにすればいいのです」
「心霊スポットで仮装はただのパーティーですねぇ」
「六百匹の犬猫を放つのもよいかと」
「まず集めるのが大変そうです」
「数の暴力です。塵も積もればなんとやらですよ」
「幽霊さんも七百人で押し寄せるかもしれませんよ?」
「八百人の屈強な男たちで対抗します。かかってこい」
「バトルじゃないですから。心霊スポットで熱い戦いを繰り広げないでください」
「幽霊には塩が効くのだとか」
「そういう説もあるみたいですね」
「ならば、聖水と称して海水を売るのはどうでしょうか」
「閃いたって顔で詐欺を働こうとしないでください」
「わかりました。聖水に塩を溶かして売ります」
「要素盛り合わせみたいになっていますね。でもちょっと強そうです」
「そもそも、なぜ人間は心霊スポットに行くのでしょうか。肝試しならおばけ屋敷でもできるでしょう。幽霊なんているかどうかもわからないのに、わざわざ廃墟に行って」
「いわくつきの場所はそれだけで怖がられます。廃墟は見た目だけでも非現実的な絵になりますし、刺激を求める人たちにとってはうってつけの場所なのでしょう」
「廃墟におもしろいことなんてありませんよね」
「だから加工してそれっぽくしているんですよ。一種のエンターテインメントです」
「はあ……。暇な人たちがいるものです」
「最初は作り物と知らずに本気でこわがっていた勇者さ――なんでもないです」
「作り物だって知りながらこわがるテレビの人たちもわざとらしくて呆れますよ」
「作り物だと知りつつもこわがってしまう勇者さんめちゃかわ――なんでもないです」
「なんでこんな番組があるんでしょうね。暇なのかな」
「怖いもの見たさで視聴するんでしょうね。勇者さんみたいに――なんでもないです」
「はあ……、今日も心霊スポット特集の番組がやっていますよ。飽きないんでしょうか」
「そう言いつつかけるんですね」
「他に観るものがないだけです」
「お布団かぶりながら観るんですか?」
「今日は少し冷えるので」
「さっきよりもぼくに近づいているのは寒いからですか?」
「そうです」
「そうですか~。風邪をひかないようにしてくださいね~」
「それにしても、よくもまあこれだけ心霊スポットがあるものです。廃墟がぜんぶ心霊スポットになってしまいますよ」
「噂なんていくらでも作れますからねぇ」
「廃墟を破壊していったら、このならず者たちはどこを心霊スポットにするのでしょう」
「なんでもないただの橋やらトンネルやらを心霊スポットにするんですよ」
「呆れた……。それのなにが楽しい――あれ、この廃墟見たことありますね」
「ぼくたちが昨日野宿していた廃墟ですよ。どうやら昔、殺人事件があったみたいです」
「…………」
「今日は勇者さんとの距離が近くてうれしいです~」
お読みいただきありがとうございました。
勇者さんと魔王さんの距離が縮まりました。物理的に。
魔王「勇者さん? こわいならテレビを消せばいいんですよ」
勇者「……別にこわくないです」
魔王「夜におトイレに起きても知りませんよ?」
勇者「……こどもじゃないんで」