264.会話 当番の話
本日もこんばんは。
天目はうさぎさんもふもふ当番です。
「料理当番とか掃除当番とか、一緒に暮らしている~って感じがしませんか?」
「そこまで……」
「ぼくは思います! てことで当番制の導入を考えてみたのですが、どうでしょうか?」
「いよいよ何もしない私に嫌気がさしたようですね」
「そうではありません!」
「耳元で叫ばないでください」
「では、耳元で囁きますね」
「ふつうの声量でしゃべればいいんですよ。それで当番がなんですか?」
「ぼくはですね、勇者さんが『そろそろ夕飯の準備をしなきゃ』とか『掃除するので窓を開けますよ』とか『畳んだ洗濯物の上で寝ちゃだめですよ』とか言うのを見たいんです」
「ああ、いつもの欲望ですね」
「何気ない日々の行動や言葉から平和を感じる……。なんてすばらしいのでしょうか」
「あ、魔物の気配。これは雑魚かな……。ほっといても……人間の悲鳴。はあ……」
「ぼくたちの日常が平和だという証拠でもあります」
「うわ、こっちに気づいて走ってくる。倒すのめんどくさいなぁ……」
「一瞬一瞬に日常を感じ、感謝できるのです。ああ、平和万歳――」
「よいしょっと。はあ、おしまい」
「魔物がぎったんぎったんにされる光景を見たのですが、平和はいずこ」
「これが私たちの日常でしょう。それに、私の当番ともいえます」
「サボりまくっているのに」
「いま倒したじゃないですか」
「倒したそばから地面に寝っ転がらないでください」
「疲弊」
「疲弊の原因は勇者さんの大剣かと思われます。ほら、立ってください」
「ひとには向き不向きというものがありまして」
「そうですけど、それがどうかしましたか?」
「私に勇者業は向いていないと思うのです」
「やる気のなさはピカイチですからね」
「干した布団の寝心地を確かめる当番と料理の味見当番が向いているかと」
「寝て食べたいだけですね」
「床の耐久性を調べる当番もやりましょう」
「せめて床以外のところでだらけてください」
「あとあれです。魔王さんの命を狙う当番」
「物騒な当番ですね……。これからはぼくにハグをする当番に変えませんか?」
「羽交い締め当番?」
「威力強めのハグですか。どんとこいです!」
「魔王さんは料理当番ですよね。あとは財布当番」
「腕にも足にも頭にもよりをかけて作ります」
「勇者の力をこめた料理なら作れると思いますけど、交代しますか?」
「言葉は正確にしましょうね。毒を入れた料理の間違いですよ」
「毒殺料理人、勇者爆誕」
「新しい物語を紡がないでください」
「そろそろ夕飯になりますから、手を洗って席についてくださいね。今日は勇者とっておきの舌が痺れ、脳が溶け、四肢が砕けるスペシャルシチューですよ」
「わぁ……平和な一幕ですね! 料理に不安しかない……!」
「楽しく食事をするためにこんな物も用意したんですよ。じゃーん、時限爆弾~」
「わぁ~! とっても楽しそうでハラハラドキドキ冷や汗が止まりません~!」
「シチューのおいしさは天にも昇るほどです。たくさん食べてくださいね」
「一口食べるだけで心停止まっしぐら! 天に昇って帰ってこられないシチューです!」
「……って感じでどうでしょうか?」
「いいと思いますか?」
「完璧ですね。今日から私も料理当番にいれてください」
「やる気だけはすばらしいです。やる気だけは」
「魔王さんだけに料理をさせることに後ろめたさを感じたり感じなかったり感じても無視したりめんどくさくなって何も考えないことは多々ありました」
「心情の推移がわかりやすい一文ですね」
「でも、やらなければ上達しません。上に達する。そう、天に達しないのです」
「天に達する料理は作らなくていいですよ」
「私にお任せください。魔王さんを天に達させる究極の料理を作って差し上げます」
「だいじょうぶですのでゆっくりしていてください」
「料理洗濯家事育児、なんでもやりますよ」
「心がけはすばらしいですが向き不向きがあ――育児?」
「魔王さんの望む当番制により、物語は次のステージへ登っていくのです」
「育児ってなんですか? 勇者さん?」
「まずは、以前魔王さんが言っていた挨拶から始めましょう。おはようございます」
「おはようございます。いま午後四時ですけどね」
「次はハグ当番です。さあ来い」
「い、いいんですか? 羽交い締めではなく?」
「ハグする直前に命を狙う当番に変えればいいかなって」
「平和のへの字もない……」
お読みいただきありがとうございました。
魔王さんは財布当番に誇りを持っています。
勇者「ハグして油断させた状態で殺る当番」
魔王「平和のいの字もない……」
勇者「ハグしたまま絞める当番」
魔王「平和のわの字もない……」