26.会話 勇者の剣の話
本日もこんばんは。
勇者さんが背負っているどでかい剣の話です。
「勇者さんの剣って大きいですよね。どこで買ったんですか?」
「神様からもらったんです。いわく、私の深層心理を反映したのだとか」
「どういう意味でしょうか。大剣を振り回したい欲でもあったんですか?」
「大きい方が斬りやすいかなと思いまして」
「ああ、魔物とか一瞬で真っ二つになりますもんね」
「いえ、首を」
「首」
「これだけ刃渡りがあればどうあがいても死ぬと思いまして」
「安心と信頼の死亡保障ですね」
「ただまあ、いざ振り回してみると爽快感と一緒に腕の疲労を感じます。これ重いし」
「いっそ目力で抹殺できるようになればよかったですね」
「その手が……。いや、その目が……!」
「勇者さんのすべてを怠惰に見る目は、ある意味強力ですけどね」
「気力を削ぎ取ってやります……」
「地面に寝転がって言われましても」
「重力が強いのです。体が地面に押し付けられているのです」
「砂利にめり込むのは痛いと思うのですが」
「痛いですが動く方がめんどうです」
「そんなにもめんどくさがりなのに、大剣持てるのもすごいですね。重くないですか?」
「ああ、あれ、私に限ってそんなに重くないんですよ。重いですけど。他に武器もないのでこれを使うしかなくて、仕方なく背負っています」
「勇者補正ですか。やっとそれっぽい設定を聞きましたよ」
「そもそも、めちゃくちゃ重かったら背負ってすらいません。捨てます」
「たしかにそうですね。ぼくの考えが甘かったです」
「しかしまあ、深層心理を操作して超能力でももらえばよかったです」
「操作できないから深層心理なのでは」
「どうして腕を動かしてまで戦わなくてはいけないのか……」
「勇者だからだと思いますが」
「足ならまだ許した」
「足癖の悪い勇者ですか。評判も悪くなりそうですね」
「はあ、武器かえようかな」
「なにか欲しい武器があるんですか?」
「そうですね。手榴弾とか」
「物騒ですが、利便性は高そうですね」
「悶え苦しむデスソースとか」
「デス……ソース。名前がこわいですね。原材料は訊かないことにします」
「食べ物にはもちろん、目に向けて発射します」
「使い方が外道ですね」
「魔王さんの寝坊助姿を全世界に拡散します」
「社会的な死。ぼ、ぼくそんなにひどい姿で寝てますか⁉」
「とても直視できるものではありません。そして最後に」
「まだあるんですか。というより、ぼく限定の武器のような……」
「魔王さんの歌声を録音して全世界に――」
「やめましょう。それはやめましょう。ぼくですらやらない方法ですよ。世界が滅亡しますよ」
「なんで止めるんですか。魔王でしょう」
「あなたは勇者でしょう。止める側ですよ。止めてください、そしてやめてください」
「簡単かつ便利だと思ったんですけど」
「ほんとうに実行するなら、ぼくは全人類の鼓膜を破りに行きますよ」
「じ、地味ぃ~」
「なんですか、その顔! ぼくの歌から人類を守る正義の行いですよ」
「魔王が正義って(笑)」
「無表情で(笑)って言わないでください。ところで、ずっと訊きたかったんですけど」
「なんですか、改まって」
「勇者さんが寝転がっているそれ……」
「ああ、大剣ですよ。私の武器です」
「え、あの、危なくないですか?」
「冷たくて気持ちいいんですよ。うまく寝転がれば擦り傷で済みます」
「ケガしてるじゃないですか。なにも刃の上に寝なくても」
「思ったより砂利が食い込んで痛くて……」
「剣ってそうやって使うものじゃありませんよ。本来の役割を思い出してください」
「……そうでしたね。私としたことが、この剣も血を吸いたいと言っています」
「いや、別に血を吸わせる必要は――ひょうあぅ⁉」
「避けないでください。そして血を出せ。首をよこせ」
「順序逆ですよね? 先に首で次に血ですよね?」
「似たようなもんです。安心してください、切れ味は確認済みです。さっき私の足が見事に切れました」
「何やってんですか!」
「切れ味が良すぎて血が止まりません」
「おばかさん!」
お読みいただきありがとうございました。
この後、魔王さんに説教されながら治療を受けます。
「魔王の圧を感じた」(勇者談)
勇者「これも魔物を斬ったり雑草を伐ったり大変ですよね」
魔王「自我があるなら文句を言っても許される扱いかと」
勇者「無機物のくせにあさましいですよ」
魔王「勇者さんが使っているので、何かしら秘密がありそうですけどねぇ」




